死を呼ぶ魔の踏切(2)
二階堂は探偵だ。
どこかの探偵事務所の調査員というわけではなく、フリーランスでやっている私立探偵だった。
フリーランスなので仕事の依頼はほとんど来ることが無く、収入のほとんどは週五でやっているアルバイトでまかなっている。
それならば別に探偵稼業などせず、フリーターとして生活をしていけばいいのではないかという風にも思えるのだが、そこは二階堂の探偵としてのプライドというものが邪魔をしていた。あくまで二階堂は探偵なのだ。
そんな仕事がほとんど来ない探偵にもかかわらず、二階堂は仕事を選り好みする。自分のスキルに見合った依頼でなければ難しいということもあるのだが、二階堂はかなり特殊な仕事しか引き受けない探偵だった。
姿見を見ながら二階堂がメガネをかけて出掛ける支度をしていると、姿見の中にヒナコがひょっこりと顔を覗かせた。
「あれ、先生。お出掛けするの?」
「ああ」
「お仕事?」
「そうだ。ヒナコも一緒に行くかい」
「うん」
ヒナコは嬉しそうに頷くと、姿見の中から姿を消した。
二階堂たちが向かったのは、駅から少し離れた場所にある個人経営のレトロな雰囲気のある喫茶店だった。やってくる客のほとんどが常連であり、マスターとお喋りがしたくてやってくる近所の老人や、文庫本を読みながら長時間滞在する学生風の若者などがいるが、基本的には静かな空間だった。
「いらっしゃい」
店に入ると長髪の白髪頭のマスターが声を掛けてくる。マスタは―白シャツに薄茶色のベスト、ループタイ、ジーンズといったウエスタン・スタイルであり、それがまたよく似合っている。
いつもと同じ奥の席に腰をおろして、二階堂はアイスコーヒーを注文する。優柔不断なヒナコはすぐに注文することができず、メニューと睨めっこを続けていた。
しばらくすると、恵比寿がやってきた。この男は名前とは大違いで、瘦せこけて貧相な顔をしている。どちらかといえば、恵比寿というよりも貧乏神という方が似合っているような男だ。服装もそれっぽく、よれよれのTシャツに裾がボロボロになったジーンズで、足元はサンダル。髪は長く伸びており、無精ひげも伸びていることからヒッピースタイルのようにも見えるが、ただの面倒くさがりなだけであり、何のこだわりもない奴だった。
恵比寿は二階堂の前に勢いよく腰をおろすと、マスターにチリドッグとコーラを注文した。
「なあ、二階堂。面白い話を聞いたんだ」
「いつも言っているかとは思うが、俺は面白い話じゃなくて仕事の話を聞きに来たんだ」
「そう焦るなって。面白い話も結局は仕事の話なんだから」
二階堂に仕事を持ってくるのは、いつも恵比寿だった。口コミでやってくる客。それは恵比寿の知り合いだったり、その知り合いの知り合いだったりする。恵比寿の仕事は二階堂に仕事を紹介するということであり、依頼金の二〇パーセントを恵比寿が貰うことになっていた。
「魔の踏切って知っているか?」
「あれか、朝のラッシュ時間とかに全然開かない踏切のことか?」
「いや、違う。それは開かずの踏切ってやつだ。俺が言いたいのは、自殺者が多い踏切の話だよ」
「聞いたこと無いな、そんな話」
「実は、あるらしいんだ」
「なあ、恵比寿。悪いんだが怪談話に付き合っている暇はないんだ。単刀直入に依頼内容だけを教えてくれないか」
「なんだよ、つまんねえな。まあ、いいや。じゃあ、言うぞ。その踏切に関して、ある霊能者が依頼を受けて調査をおこなっていたらしいんだ。しかし、その調査を行っていた霊能者がある日、こつ然と姿を消してしまった」
恵比寿はそこまで言うと、ストローでコーラを一気に吸い上げる。そして、なにかを気にするかのように店内にある壁掛け時計へと目をやった。
店の入口に取り付けられているベルが鳴った。それと同時に、恵比寿は手を挙げてみせる。
入ってきたのは黒髪ロングで前髪を一直線に揃えた和服姿の女性だった。歳は二十代後半といったところだろうか。その女性は凛とした佇まいといった言葉がふさわしい感じであり、恵比寿のところまでやってくると、ちらりと視線を二階堂の隣の席へと送った。
二階堂の隣の席、そこにはヒナコが座っている。ヒナコも女性の視線に気付いたらしく、その女性のことを見上げるようにしていた。
「先生、この人はわたしのことが視えているみたい」
小声でヒナコが言う。時おり、ヒナコの姿が視える人間がいる。二階堂の周りでいえば、恵比寿も喫茶店のマスターもヒナコの姿は視えているのだが、関係者以外でヒナコのことが視える人間がいるのは珍しいことだった。
「なるほど」
その女性は呟くように言うと、恵比寿の隣の席に腰を下ろす。
「こちらは、桂川ハルヒさん。今回の依頼人だ」
恵比寿が隣りに座った女性を紹介する。二階堂のところに恵比寿が依頼を持ってくる時は、基本的に依頼人は姿を現すことはない。今回は異例中の異例だった。
なぜ恵比寿がわざわざ依頼人を二階堂に紹介したのか。二階堂は嫌な予感を覚えていた。
「なあ、恵比寿。お前、どういうつもりだ」
「どういうつもりも何も……」
二階堂の言葉に恵比寿は困ったように言った。
すると、隣りに座っていた桂川ハルヒが口を開いた。
「二階堂さん、弟を助けてもらえませんか」




