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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
廃病院の噂と異界の門

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廃病院の噂と異界の門(3)

 巧妙に張られた罠だった。

 ネットに祖母の思い出と題されて書き込まれた話。匿名掲示板で話題となり、多くの人が目にしたはずだ。しかし、その話を書いた人間が誰であるかはわからない状態だった。だから、匿名掲示板なのだ。

 病院勤めだった祖母の昔話で人々を話題の中に引き込み、廃病院の地下にお宝が今でも存在していると思い込ませる。もちろん、そんなお宝などは存在するはずがないと少し考えればわかることなのだが、それを信じてしまう人間も一定数いる。特に匿名掲示板のような不特定手数の人間が集まるような場所では。

 宝があると信じて、断片的な情報から廃病院を探し出した若者がいた。いや、実際には探し出したのではなく、巧妙に導かれたのだ。その若者は、廃病院に不法侵入し、地下室を暴いた。そこにお宝があったかどうかなどはこの際は関係なかった。問題は若者が暴いてしまったものだった。

 封印。それは、封じ込められたモノは破ることはできない。しかし、第三者が意図せずにその封印を解いてしまうということは、ありえることだった。そこを巧妙に操り、封印を解かせたのだ。封印を解かせるように仕向ける事ができたということは、その封印も弱まっていたということだろう。

 匿名掲示板に書き込まれた、祖母の思い出話。それのどこからが罠だったのかはわからない。最初から封印を解かせるために書き込まれたものなのか。それとも、途中から罠に書き変えられたものなのか。

 こちらの世界も常にバージョンアップをしている。一昔前であれば、心霊写真などがデジタルカメラでは映らなくなったなどとも言われていたかもしれないが、彼らは電子データにも入ることができるようになっているのだ。だから、匿名掲示板に入り込むことなども、あり得ることであり、デジタルだから大丈夫という考えはもう古かった。


 実のところ、二階堂のところにも廃病院にまつわる調査依頼が来ていた。依頼人は市議会議員だという人間であり、自分の選挙地盤である地域で妙な噂が流れているので匿名掲示板の噂の真相を確かめてほしいといった依頼をしてきたのだ。しかし、あまりにも抽象的すぎる依頼であり、何をどう調べればよいのかわからないということで、依頼を請け負うかどうかについての回答は保留したままとなっていた。


 異界に姿を現したのは、軍服を着た男だった。軍服を見る限り、そこそこの階級であるようだ。歳は、若いようにもみえるが、中年のようにもみえる。ただ顔の半分は焼け爛れており、見るに堪えない顔だった。この男が封印されていた人物だということなのだろうか。二階堂は男のことを見つめながら、考えていた。

「何者だ、貴様ら」

 男が言う。男は上半身だけであり、胸から下は爆ぜたように存在しておらず、脊椎と内臓の一部と思われるものが垂れ下がっている状態で、空間に浮いていた。

「それはこっちが聞きたいね」

 そう言ったのは桂川だった。この男はいつだって強気な口調だ。二階堂は桂川の後ろで苦笑いを浮かべた。

「お前らは、財宝を狙う賊か?」

「財宝? 陸軍の財宝って話は本当だったのか?」

 軍人の口から出た言葉に二階堂は驚きの声をあげた。財宝の話は誘い込むための作り話というわけではなかったようだ。

「やはり、貴様らは財宝目当ての賊なのだな」

 男の目つきが変わった。どこから現れたのかはわからないが、男の右手には軍刀が握られている。

「ちょっと待て、俺たちはあんたが考えているような賊じゃない」

「では、何者だ」

「変な話だが、俺は通りがかりの探偵だ」

「探偵だと?」

「ああ、行きがかり上、あんたに異界に引き釣りこまれてしまった」

「馬鹿を言うな。お前たちが財宝を狙ってやってきたから、わたしが目覚めたのだ」

 それを聞いて、二階堂にはひとつ思い当たる話があった。それは、エジプトのピラミッドなどにまつわる財宝を守る亡霊の話だ。死ぬ前に己に呪いをかけて、死んだ後もその財宝を守るための亡霊となるというものだ。まさか、それを近代の日本で実践しているモノがいたとは、思いもよらぬことだった。

「もう面倒くさいな。おれが祓ってやるよ」

 桂川はそう言って指を使って印を組みはじめた。桂川は悪霊祓いなどを行う陰陽師であり、術師としての力もそこそこある人物だった。

「よせ、桂川」

おんおんに還り、光は光に導かれん。天地のことわりに背きしよこしまなものよ、速やかに本来あるべき姿へと戻るべし。我は天地の赦しを得て、汝を解き放つ。急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう……」

 桂川は二階堂の言葉に耳を貸すこともなく、悪霊祓いの詞を唱えだしていた。

「ほう、祓うつもりか。わたしを祓って、財宝を手に入れようという魂胆だな。許せん、許せんぞ」

 軍人はそう言うと、軍刀を片手に襲いかかってきた。

 宙に浮いているということもあり、軍人の刀の動きは予測ができないものがあった。二階堂は後ろに飛び去るようにして軍人との距離を取ったが、桂川は印を組んでいる状態ということもあり、軍人の攻撃をうまく避けることはできなかった。

 軍人の持つ軍刀の刃が桂川の首に向けられ、弧を描きながら向かっていく。

 駄目だ。そう二階堂が思った時、予想外なことが起きた。

 一瞬、何かが光った。それだけは見えていた。

「何の真似だ……」

 軍人は驚いたような声をあげた。

 桂川に向かっていった軍刀の刃は真ん中から綺麗に折れて、宙を舞っていた。

 軍刀の刃から桂川を守ったもの。それは桂川の前に差し出された扇子だった。

「調子に乗るなよ、小僧」

 そう軍人に告げたのは、ヒナコだった。ヒナコは異界に入ったことで、現世の姿とは違う平安装束姿となっており、いつもは肩くらいまでしか無い髪も地に着くほどに伸びている。そして、切れ長の目で鋭い視線を軍人へと向けられていた。

「これは、とんでもないモノが出てきたものだ」

 軍人は驚いた顔をしながら、ヒナコのことを見ている。

 ヒナコは二階堂家に代々伝わる呪いだった。二階堂家の当主となったものは、この呪いを引き継ぎ続けなければならない。それが二階堂家に課せられた呪いだった。そして、現当主である二階堂もその呪いを引き継いでいた。

「よせ、ヒナコ。きちんと話をしよう。話せばわかるはずだ」

 まるで犯人を説得する刑事のように二階堂はヒナコと軍人に語りかけ、二人が聞く耳を持つのを待った。

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