表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
廃病院の噂と異界の門

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/77

廃病院の噂と異界の門(2)

 二階堂は探偵だ。どこかの探偵事務所の調査員とかではなく、フリーランスでやっている私立探偵だった。フリーランスなので仕事の依頼はほとんど来ることが無く、収入のほとんどは週五でやっているアルバイトでまかなっている。

 それならば別に探偵稼業などせず、フリーターとして生活をしていけばいいのではないかという風にも思えるのだが、そこは二階堂の探偵としてのプライドというものが邪魔をしていた。あくまで二階堂は探偵なのだ。

 そんな仕事がほとんど来ない探偵にもかかわらず、二階堂は仕事を選り好みする。自分のスキルに見合った依頼でなければ難しいということもあるのだが、二階堂はかなり特殊な仕事しか引き受けない探偵だった。


 その日の夕方、スーパーからの帰り道で二階堂は、数台のパトカーが赤色回転灯を点けたまま停車しているのを見かけた。

「なんだろうね、先生」

 隣を歩いていたヒナコが、興味津々といった表情でパトカーの方を見ている。

 まるで日本人形みたいに前髪を一直線に切りそろえた黒髪で、小柄な一見すると少女のようにも見えなくはない存在。それがヒナコだった。

 厄介事には近づいてはならない。二階堂はそう思いながら「さあな」と短く答えると足早にその場を去ろうとした。

 しかし、厄介事というのはこちらから近づかなくても、向こうから近づいてくるものなのだ。

「おい、探偵じゃないか」

 立ち去ろうとするのを遮るかのように、二階堂のことを呼び止める人物がいた。

 振り返るとそこには、金髪のマッシュヘアに丸いサングラス、右耳と右の鼻の穴の脇を繋いだピアスチェーン。服装は体のラインが分かるほどにタイトな黒のレザージャケットとレザーパンツで足元は編み上げブーツといった特徴的なファッションセンスの人物がいた。会うのは二度目だったが、間違えることはなかった。

「桂川か……」

「久しぶりだね、ヒナコちゃん」

 桂川は二階堂の隣に立つヒナコに笑みを浮かべるようにして言ったが、その笑みはどこかぎこちなく見えた。それもそのはずである。前回会った時、桂川はヒナコのことをバケモノと呼び、ヒナコを怒らせてしまったということがあったのだ。本当のヒナコの姿を知った桂川は、手のひらを返すかのような態度でヒナコに接していた。

「先生。わたし、あの人嫌い」

 ヒナコが小声で二階堂に伝える。

 その声が桂川にも聞こえたようで、桂川は頬を引きつらせていた。

「なんでこんなところにいるんだ、桂川」

「そりゃあ、決まっているだろ。仕事だよ」

「仕事?」

「ああ。そこの病院跡地で、ちょっとした怪異が発生したらしいんだ。肝試しのつもりで侵入したガキがひとり喰われちまった」

「喰われた?」

「わかっているだろうけれど、物理的にってわけじゃないぜ。あちら側のやつらが物理的に攻撃をしてくるってことは稀だ。あそこにいるのは、そこまで上級なやつらじゃなかった。やつらはガキの精神を喰らい、ガキはおかしくなっちまったそうだ」

「それで、祓い屋を頼んだってわけか」

「おいおい、おれを祓い屋なんて呼ぶなよ。おれは代々やっている陰陽師の家系なんだからよ」

 桂川はそう言うと前髪をかきあげてみせた。

 そのチャラいビジュアルから代々やっていると言われても、まったく説得力はなかった。しかし、桂川が陰陽師であるということは二階堂も知っていたし、その実力もこの目で見ていた。

「もう終わったのか?」

「ああ。簡単な仕事だったよ。あとは警察が現場検証して終わり。探偵の出番は無いぞ」

「出番は無い方がいいんだ。じゃあ、俺は帰るよ」

 そう言って二階堂が桂川に背を向けようとした時、どこからか声が聞こえてきた。

「おい」

 その声は、まるで二階堂を呼び止めるような声だった。

「呼んだか?」

 振り返った二階堂だったが、同じように桂川も振り返っている状態だった。

「祓ったんじゃなかったのかよ、桂川」

「ちゃんと祓ったさ。下級の地縛霊だったけれどな」

「どう考えても、違うじゃないか」

「おれが依頼されたのは、下級の地縛霊を祓うって話だったんだよ」

 ふたりが言い合いをしていると、地面が揺れた。

 二階堂はメガネをかけなおし、パトカーが停まっている先をみつめる。霊道。そう呼ばれる道がある。そこには、多くの霊魂が集まってくる。不浄霊、動物霊、浮遊霊。様々な霊が通る道であり、鬼門の方角と結びついていることが多かったりもする。

「言っておくが霊道は塞いだぞ、二階堂」

「違うな。もっと凄いものがあそこにはある。何をしたんだ、桂川」

「おれは何もしていないさ。やったのは、きっと喰われたガキだ。ガキが余計な封印を解いちまったんだよ」

「なるほど。これは封印を解くための……」

 そこまで二階堂が言った時、また地面が揺れた。今度は、先ほどよりも大きな揺れだった。

「来るぞっ!」

 二階堂がそう叫んだ時、辺りは漆黒の闇に包まれた。

 先ほどまで視界の先にあったはずのパトカーの姿はなくなっており、まわりの風景も消えている。

 ただそこにあるのは、漆黒の闇であり、そこに二階堂とヒナコ、そして桂川が立っていた。

 異界。そう呼ばれる空間がある。誰がどのようにして生み出すのかは、現代科学を持ってしてもわかってはいない。

 その漆黒の空間は異界だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ