廃病院の噂と異界の門(1)
先日、祖母が亡くなり、わたしたちは祖母の遺品を整理していました。
筆まめだった祖母は若い頃から多くの手紙や日記というものを書いていて、机の引き出しの中には多くの手紙や日記が入っていました。
わたしたちは遺品整理をしながら、自分たちが生まれた時の様子などを書いた祖母の日記を読んで涙を流したり、笑ったりしていました。祖母は本当にわたしたちを愛してくれていたのだと、今更ながら思ったりして、もっと祖母とおしゃべりをしたかったななどと思っていました。
そんな中、一冊だけ鍵のかかった引き出しの中に入っていた日記がありました。鍵は別の棚の瓶の中に入っており、その鍵が引き出しの鍵であるということに気がつくまで、結構時間がかかりました。
なぜ一冊だけ別の場所に保管されているのだろう。そんな疑問をいだきながら、わたしたちはその日記を読みました。その日記は祖母が看護師だった頃の日記でした。祖母が看護師だったという話をわたしたちは聞いたことがなく、初めて知る事実でした。若い頃に祖母は、とある病院で看護師をしていたそうです。その日記は看護師時代の苦労話などが色々と書かれていました。なぜ、この日記だけ別の場所に――わざわざ鍵のかかる引き出しの中にしまっておく必要があったのか。わたしたちは疑問に思いながら、その日記を読み進めました。
しかし、あるところで、わたしはページを読む手を止めました。そこには病院の地下倉庫に関する話が書かれていたのです。
その日、祖母は夜勤の際に病室の見回りを行った後で、地下にある倉庫へ薬品を取りに行ったそうです。祖母は職場である病院を怖いと思ったことは無いそうですが、地下だけは別だったようで、夜勤をしていた先輩に付き添ってもらって一緒に地下へと向かったという話が書かれていました。地下には、薬品倉庫の他に備品倉庫、そして霊安室もあったそうです。エレベーターを使って地下へ行くと、そこは妙なくらいに静まり返った空間だったと書かれています。祖母たちの足音だけが廊下に響いていたということも書かれています。地下倉庫で無事に必要な薬品を手に入れた祖母たちは、倉庫を出ようとした時に奇妙な音を聞いたそうです。その音は甲高い女性の悲鳴のようにも思えたとか。ただの怪談話。そう片付けることもできたはずですが、その時の祖母たちはなぜかその音がどこから聞こえてくるのかを調べようとしたそうです。どうやって調べたのかという話は書かれていませんでしたが、その音が薬品の入っているロッカーの裏側から聞こえてくることに気づいたそうです。ロッカーの裏側は壁でした。しかし、そこの壁が一部剥がれていることに気づいたそうです。
翌朝、祖母たちは医院長にそのことを報告し、壁の向こう側に何があるのかを知ろうとしたと書かれています。その病院は、戦時中は陸軍が基地として使っていた場所であり、地下は防空壕としても使われていたという話を医院長がしてくれたそうです。きっと、防空壕の一部を壁で埋めてしまったのだろう。医院長はそう祖母たちに告げたそうです。ただ、医院長はそれだけでは終わらせませんでした。知り合いの解体業者を連れてきて、その壁を壊そうと言い出したのです。解体業者は大きなハンマーを使って地下倉庫の壁を壊し始めました。祖母たちも固唾をのんでその様子を見守ったそうです。
壁の向こう側。そこには煉瓦で作られた通路がありました。医院長の話通り、ここは防空壕だったようです。医院長といっしょに祖母たちはその奥へと進んでいったそうです。そして、その奥にあった小さな部屋を見つけたと書かれていました。小さな部屋は執務室のような場所となっており、机と本棚があったそうです。きっと、ここで陸軍の人間が指揮を執れるようになっていたのでしょう。祖母たちがその部屋を見回していると、急に医院長がこの部屋から出た方がいいと言い出したそうです。どうして、急にそんなことを言いだしたのだろう。祖母たちは疑問に思いましたが、医院長の言葉に逆らうことは出来ずに、その部屋を出たそうです。その部屋に関しては、再び壁で塞がれ、二度と行けないようになったと書かれていました。
なぜこのような話を日記に書いたのだろうか。そして、なぜ祖母はこの日記だけを別の場所に保管していたのだろうか。そんな疑問を覚えながらわたしはページをめくりました。
そこで祖母が日記を別の場所に保管した理由がわかりました。
病院にまつわる奇妙な話。医院長はその後、自殺をしてしまったという話が書かれていました。医院長が自殺した理由は不明だそうです。病院自体は医院長の弟であった副医院長が継ぐという形で存続されました。しかし、その弟も数年後に自殺してしまったそうです。病院の呪い。近所の人々はそう噂していたそうです。さらに、その後に病院を引き継いだ親戚の人間がいたそうですが、その人も気が触れてしまったとか。そんな話が書かれていましたが、そこで再び地下室の話が出てきました。あの執務室で、医院長はあるものを見つけたという話が看護師たちの間で話題になっていたのだそうです。
旧陸軍にまつわる財宝の話。とある看護師が調べたところ、この病院の場所にあった陸軍基地は陸軍の資金を保管する場所だったそうです。そして、その陸軍の資金を戦争が終わる前に黄金に替えて、地下にある防空壕に隠したという噂話が戦後の数年にあったとか。GHQはその噂話を信じて、陸軍基地を解体しましたが、その宝を見つけることは出来ず、この病院に土地を売り払ったそうです。
もしかしたら、医院長はお宝を手に入れて、誰かに殺されたんじゃないか。そんな噂も出たそうですが、その真偽を知る人間は誰もいなかったそうです。
そこで祖母の日記は終わっていました。




