講堂のバレリーナ(5)
振り返るとそこにはバレリーナの格好をした少女が立っていた。
先ほどの赤ん坊を抱えた女性とは比べ物にならないほどの邪気が体から放たれている。
「おい、あんたが言っていたのって、こいつのことか?」
唖然とした表情で男が言う。
「そうみたいだな」
まさかこんなすごいのがいるとは二階堂も思ってはいなかったらしく、少し声が震えていた。
「祓えるのか?」
「やるしかないだろう」
二階堂と男はふたりして指で印を組み、真言を唱え始めた。
しかし、真言を唱えている途中でバレリーナ姿の悪霊がふたりのことをひと睨みすると、まるで衝撃波に襲われたかのように、二階堂も男も吹き飛ばされてしまった。
「レベルが違いすぎる……何なんだよ、こいつ」
男が鼻血を垂らしながら言う。
「さっきの赤ん坊よりも強い怨念が、あれには込められているみたいだな」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないだろ。どうするんだよ」
「俺たちでは、無理だな」
「おいおい。何を言ってんだ、あんた。このクラスの呪怨を呼び起こしておいて逃げるっていうのか」
「まさか。俺たちには無理だけど、俺にはヒナコがいる」
「……あのバケモノか」
「よせよ。お前があまりにヒナコのことをバケモノなんて呼ぶから、きょうは機嫌が悪い」
二階堂はそう言うと、懐から人形の紙を取り出して、それを破ってみせた。
するとヒナコの身体が蒼い光に包まれていく。
先ほどまで制服を着た女子生徒のようだったヒナコの髪は長く伸び、そして平安時代の貴族のような着物姿へと姿が変わった。
「我のことをバケモノなどと呼びおったな、小僧」
そう言ってヒナコが男をひと睨みする。
そのひと睨みだけで、男は心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥り、生きた心地がしなかった。
ヒナコの正体。それは平安の頃から存在している呪いだった。その呪いは二階堂家が代々に渡って管理しており、二階堂自身も先代であり、師であった兄から受け継いだモノだった。強い呪いであるヒナコは身体を少女へと擬態化させ、現世に存在しているのである。
「きょうの我は機嫌が悪いぞ」
ヒナコはそう言うと、目の前にいたバレリーナ姿の少女の頭に持っていた畳んだ扇子を振り下ろした。
少女の断末魔が響き渡り、辺りがまばゆい光に包まれていく。
「結局は、何もわからず終いか」
「仕方ないだろ。ヒナコの力を借りなければ、こっちがやられていた」
「あんた、探偵なんだろ。調査結果とかいいのかよ?」
「邪が祓われて、平穏無事に終わればいいんだよ」
「そんなもんなのか」
「ああ。そういえば、名前聞いてなかったな」
「桂川だ。眼鏡の探偵、あんたは?」
「二階堂だ」
講堂のバレリーナ 了




