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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
探偵らしい仕事

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20/77

探偵らしい仕事(4)

 妙な空気が流れていた。三人の生者と、ひとりの呪いと、ひとりの霊。

 それがリビングにあるソファーで一同に集まっている。

 その中央にあるローテーブルの上には二階堂のメガネが置かれており、西田夫妻からレンズを通してヒナコと上半身だけの男が視えるようになっていた。

「最初に自己紹介をしようか。俺は二階堂、探偵だ。あんたが現れたっていうんで、その調査をしに来た。それと、隣りにいるのはヒナコ。俺の助手だ」

「な……なぜ、視える……」

 上半身だけの男が大きく見開いた目をギョロギョロを動かしながら言う。

「生まれつきだよ。俺はそういう家系に生まれたんだ。ただそれだけさ」

「ヒ……ヒナコ……ヒナコは何なんだ」

「わたしは先生の助手だよ」

「ち……違う……。お前は現世のモノ……ではない」

「説明すると、長くなるんだ。簡単にいえば、ヒナコは俺の呪いだよ」

「そ……そうなのか……」

「うん、そうだよ」

「あんたは、何者なんだ。教えてくれ」

「お……おれ……おれはこの土地……土地のモノだ……」

「地縛霊ってわけか」

 そう答えながら二階堂は男のことをじっと見た。

 地縛霊というのは、その土地に憑き続ける霊の一種だった。恨みやつらみといったものを強く持っている場合が多く、その場合は怨霊となって、その土地に近づく人間に悪い影響を与えたりもする。

「べ……べつに……おれは悪いことは……していない……ただ……」

「ただ?」

「あ……兄……兄の帰りを……待っている……だけだ……」

「お兄さんというのは?」

「あ……赤……赤紙……を受け取って……戦争……へ行った……」

 赤紙というのは、第二次世界大戦中、戦時下の臨時召集令状のことだった。この赤紙が来た人間は兵隊として戦場へと送り込まれた。その招集令状が赤い紙だったことから、赤紙と呼ばれていた。戦時下の日本では、この赤紙が来ることが光栄だと思い込まされていた。

「そうか。ずっとお兄さんを待っているというわけか」

 二階堂の言葉に上半身だけの男は無言で頷く。

 この辺りは大規模空襲があった場所だった。おそらく、この男はここにあった自宅で兄の帰りを待っていたのだろう。しかし、空襲に遭い、死んでしまった。この男は自分が死んだということに気づく間もなく死んだため、成仏することなく、戦後八〇年以上経った今でも、この場に留まり続けているのだ。

 どうするべきか。二階堂は迷っていた。祓うことは簡単だった。先ほどのように、男が西田の奥さんのお腹にいる子どもを一緒に連れていこうとするような状態にはなかった。しかし、強制的に払ってしまうというのは、あまりに残酷なような気もした。

「氏神様の力を借りるか……」

 男の話によれば、男は代々この地に住む家系の人間だった。それであれば、氏神様の力を借りることができるだろう。そう二階堂は判断したのだ。

「近くに神社は?」

 二階堂は西田に問いかける。

 西田は少し考えたあと、駅の反対側にある神社の名前を告げた。

 その神社の名前を出したところ、上半身だけの男は涙を流した。その神社はこの土地の氏神様でもあるようだ。

「わかった。じゃあ、氏神様のお力を借りて、成仏してもらおう。それでいいかな?」

 二階堂の問いに男は無言で頷いた。

 リビングに小さな祭壇を作った二階堂は神社で購入してきた札を使い、除霊の儀式を行った。

 そして、上半身だけの男は氏神様と共に天へと上っていったのだった。


「先生、今回の先生は探偵さんみたいだったよ」

「おいおい、ヒナコ。俺は探偵だよ」

「そっか」

 ヒナコは楽しそうに笑う。

 西の空が朱く染まっていた。沈みかける太陽に反射するかのように多くの魂たちが天へと上っていく姿が二階堂の目には視えていた。


 探偵らしい仕事(了)

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