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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
探偵らしい仕事
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探偵らしい仕事(3)

 西田の住まいは駅の直ぐ側にあるマンションだった。部屋は2LDKであり、西田の奥さんは小柄で笑顔が耐えない印象の女性であり、突然訪問した二階堂のことを嫌な顔ひとつせずに迎え入れてくれた。

「紅茶とコーヒー、どちらがお好みですか?」

 ニコニコと笑みを浮かべながら西田の妻が二階堂に尋ねてくる。

 本当にこの女性が浮気をしているというのだろうか。そんなことを思いながら、二階堂は西田の妻にコーヒーをお願いした。二階堂の隣にはヒナコの姿があったが、西田の妻にはヒナコのことが視えていないようだった。それについてはヒナコも慣れっこのようで気にする様子もなく部屋の中を見回している。

「どうですか、二階堂さん」

 西田は妻がキッチンへ立った隙を見て二階堂に話しかけてきた。

「まだ来たばかりですので、わからないですよ。もう少し時間を掛けないと」

「そうですよね。失礼しました」

 落ち着かない様子で西田は言う。

 わからないと言ったが、二階堂はある異変に気付いていた。しかし、これは浮気とかそういう問題ではなかった。

 恵比寿のやつ、全部わかっていて依頼を俺に振ったんだな。

 心の中で二階堂は毒づくと、かけていたメガネを外してテーブルの上に置いた。

 二階堂の視線の先、そこには上半身だけの男が浮いていた。髪は長く、パーマでもかけているのかうねっている。青白い顔をした黒いシャツの男なのだが、胸から下は存在していない。

 その上半身だけの男はフワフワと宙を浮きながら西田の妻につきまとっていた。

 すべてはコイツが原因か。さっさと祓って仕事を終わらそう。二階堂はそう思って指で印を組もうとしたが、ヒナコが首を横に振った。

「先生、ダメ。この人を祓えば、奥さんのお腹の中の子が連れて行かれちゃう」

「え?」

「この人、しゅを掛けているの」

 呪。それは太古の時代より受け継がれてきた術のひとつである。呪はある意味、信仰であり、時には薬でもあった。(のろ)いと(まじな)い。同じ文字で書くが現代では意味は大きく違っている。

「じゃあ、どうやって祓えばいいんだ」

「この呪には、どこかに大元となるものがあるはずだから、それを排除すれば自然とこの呪も解けるかもしれない」

「なるほどな。しかし、大元っていうのは……」

 そこまで二階堂は言って、何かを思いついた顔をした。

 そして、テーブルの上に置いておいたメガネを取ると西田に手渡した。

「このメガネをかけてみてくれないか」

「え?」

 突然の申し出に西田は困惑した表情を浮かべたが、なにか意味があるのだと悟り、二階堂からメガネを受け取ってかけてみた。

 二階堂のメガネ。それはただの伊達メガネだった。度は入っていない。しかし、特殊な力が込められており、このメガネのレンズを通すと霊の姿が視えるようになるというものだった。

「ひっ!」

 二階堂のメガネをかけた西田は悲鳴に似た声をあげる。

 西田の眼の前にはヒナコが立っていた。

「だ、誰だっ!」

「西田さん、落ち着いてください。彼女は俺の助手でヒナコといいます」

「え、でも……」

 二階堂のメガネをかけたり、はずしたりしながら、西田は眼の前にいるヒナコのことを見ている。

「彼女は味方です。それよりも、奥さんの方を見てください」

「あ、ああ」

 西田がメガネをかけたまま、奥さんの方へと視線を送ると、西田の顔が見る見るうちに強張っていった。

「な、なんなんだよ、あいつ」

「奥さんに憑いている霊です。おそらく、電話の声や排水溝の髪の毛、部屋の雰囲気がおかしいというのは、あれの仕業です」

「ど、どうすればいいんだ」

「あの男の顔に見覚えはありませんか?」

「いや、見たこと無い」

「じゃあ、奥さんのほうか」

 二階堂はそういって西田からメガネを取り上げると、今度は西田の奥さんの方へ近づいていった。

 突然二階堂が近づいてきたことで、奥さんも後ろに居た男の霊も驚いてみせた。

「ちょっと失礼」

 二階堂はそう断ると、奥さんと悪霊の間に小さな結界を張る。こうすることで、一時的に悪霊は奥さんへと近づけなくなった。

「このメガネかけてみてもらえませんか」

「え、なに? なにかのゲーム?」

 困惑しながらも奥さんは二階堂から渡されたメガネをかける。

「きゃー!」

 悲鳴をあげるのも当然だった。眼の前に上半身だけの男がいるのだから。

「だ、だ、だれ」

「見覚えはありませんか?」

「無いわよ。なんなの、これ」

 そう言われて二階堂は首を傾げた。では、この男はなぜ、奥さんに憑いているのだろうか。

 奥さんに憑いていた上半身だけの男の霊は、敵意を剥き出しにした犬がやるように歯をむき出しにしてこちらを威嚇するような表情を浮かべている。

 しかし、何も手出しはしてこないことから、別に悪い霊ではないのではないかとも二階堂は考えていた。

「なあ、ヒナコ。どう思う」

「うーん、そうだね。ちょっと話をしてみた方がいいんじゃないかな」

「そうだな。ちょっと話すか」

 二階堂はそう言うと、全員をソファーに座らせることにした。

 片方のソファーには西田と奥さん、そして上半身だけの霊が座り、その対面に二階堂とヒナコが座るという形を取った。


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