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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
猫鳴トンネルの怪
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猫鳴トンネルの怪(4)

 時おり、小さな地震でも起きたかのように地面が揺れた。

 二階堂はそれを気にすることもなく天井を睨みつけるような目で見つめている。

「誰かが吹いた作り話に乗っかって、呪いを発動させるなんて趣味が悪いじゃないか。それともなんだ、あんたらみたいな低俗な霊はこういう形でしか呪いを発動できないのか」

「うるさいっ!」

 天井に映し出された女の顔は、唇をワナワナと震わせ、怒鳴るような口調で言う。

「うるさくは無いさ。本当のことを言っているだけだろ。もっとはっきりと言ってやろうか。ここで死亡事故なんかは一度も起きたことはない。それなのに、誰かが死亡事故があったと嘘をついて、この猫鳴トンネルは幽霊の出るトンネルだと言い出したんだ。すると心霊スポット扱いされるようになり、人々が怖いもの見たさで来るようになった。そこにお前は便乗したんだ。低俗な霊ってヤツは、人間に怖がられることを好むからな。そして、怖がる人々の負の力を得て、お前みたいな低俗霊が出来上がったってわけだ」

「黙れっ!」

「図星だったか?」

 二階堂が笑うように言うと、また小さな地震が起きたかのように地面が揺れた。

「わたしはお前を許さない。絶対に許さないぞ」

 天井に現れた女の顔は男の声と混ざり合いながら怒りの感情をむき出しにした。

「許さないというなら、どうするんだ。まさか、呪い殺すとか言うんじゃないだろうな」

「わたしはお前を許さない。絶対に許さない」

 女が同じ言葉を繰り返すと、トンネルの天井が歪んだように見えた。

「来るぞ、ヒナコ」

「だいじょうぶ」

 大きな地響きがした。その地響きと同時に世界が揺れる。

 少しよろめいたヒナコを二階堂は抱き寄せるようにして支えた。

「絶対に許さない」

 そう声がしたかと思うと、目の前には巨大な女の顔があった。その顔の大きさはトンネルの地面から天井までを覆い尽くすほどであり、顔の皮膚は火傷でもしたかのようにただれていた。

「低俗霊も集まれば、実体化することもできるのか」

 鼻で笑うように二階堂が言うと、女の顔は怒りに震えた。

「黙れっ!!!!」

 女が叫び声をあげると、風が吹いた。その風に乗って、何かが腐敗したかのような臭いが鼻腔に届く。

「お前は絶対に許さないぃぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃ」

 狂ったかのように女は叫ぶと、真っ赤な口紅が塗られた大きな口を開けて二階堂へと襲いかかってきた。

 二階堂はバックステップをするかのように後ろへ飛ぶ。

 先ほどまで二階堂が立っていた場所で、女の口は空を噛む。歯と歯がぶつかる音。もし、少しでも二階堂が下がるのが遅れていれば、今頃はあの歯で腕や足が噛み切られていたかもしれない。

「やるじゃないか、低俗霊の集まりのくせに」

 さらに二階堂は挑発するかのように言う。

「先生っ、危ない」

 ヒナコが叫ぶように言う。

 二階堂は慌てて、更に一歩後ろへと下がる。

 地面から無数の腕が伸びてきていた。もし、ヒナコの声がなければ、今ごろ二階堂はその手に捕まり、女に喰われていたかもしれない。

「もう少し遊んでやろうかと思っていたが、もう潮時みたいだな」

 二階堂はそう言うと、カバンの中から小さな小瓶を取り出した。その小瓶の中には液体が入っている。

「うるさいぃぃぃぃぃいぃぃぃぃ」

 女が顔を歪ませ、叫び声をあげながら、口を大きく開いて、二階堂へと襲いかかる。

 今度は下がることはせず、二階堂は手に持っていた小瓶の蓋を開けると女の口の中へとその中身を注ぎ入れた。

 女はそんなことはお構いなしと言わんばかりに、二階堂の腕を食いちぎろうと黄ばんだ歯を噛み合わせようとする。

 しかし、次の瞬間、女の顔は苦悶の表情へと変わった。

「な、なにをした……」

「別に。ただ、この地域をお守りになられている神様のお神酒をお裾分けしただけだよ」

「お、お、お、おのれ、こしゃくな……こしゃくな……」

 女の顔が歪んだかと思うと、まるで破裂するかのように消え去ってしまった。

「除霊、完了……だな」

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