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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
猫鳴トンネルの怪
11/75

猫鳴トンネルの怪(1)

 雨が降っていた。大粒の雨というわけではなく、視界が不良となる霧雨だった。

 深夜ということもあり、他に走っている車はない。二階堂の乗るタクシーだけが山道を走っていた。そもそも、こんな時間にこんな場所へ来るような酔狂な人間はいないのだ。

 何度かカーブを曲がった後、交通案内の標識が闇の中に浮かび上がる。その標識には300メートル先にトンネルがあることが示されていた。

「トンネルの手前で停めてもらえますか」

 後部座席に座っていた二階堂は運転手に告げる。

 すると運転手は緊張した面持ちで唾をごくりと飲み込み喉仏を上下させた。

「大丈夫ですよ」

 説得力の無い言葉を二階堂の隣に座っていたヒナコが告げたが、その声は運転手に聞こえなかったのか、強張った顔を前に向けたままだった。

 しばらく走ると闇の中にぽっかりと大きな口を開いたような巨大なトンネルが姿を現した。

 猫鳴(びょうめい)トンネル。そう看板には書かれていた。山の中ということもあって、周りには木々が生い茂り、その不気味さを増長させている。

 ハザードランプをつけてタクシーが停車すると、二階堂はカバンからレインコートを取り出して、それを羽織った。

「ここで待っていてください。そんなに時間は掛らないと思いますので」

 二階堂はそう運転手に告げると、タクシーの後部座席から降りた。

 霧雨はタクシーのライトの明かりを遮るかのように降り注いでいる。

 持っていたマグライトを照らしながら二階堂は歩みを進める。

「なんか凄いね、ここ」

 隣を歩くヒナコがいう。ヒナコはショッキングピンクの派手なレインコートに身をすっぽりと収めていた。

「よくもまあ、こんなにも集めたものだ」

 二階堂はそう呟くとトンネルの中へと足を一歩踏み入れた。

 湿気が凄かった。それに苔むしたような臭いが鼻につく。湿度のせいで、眼鏡のレンズは曇ってしまっていた。

「眼鏡、外しちゃえば。先生は眼鏡が無くてもえるんでしょ」

「そうだな」

 ヒナコの言葉に二階堂は頷き、眼鏡を外すとリュックサックの中にあった眼鏡ケースの中へ丁寧にしまった。

 トンネルの長さは200メートルほどの直線だった。車で通り抜けると、あっと言う間の距離だが、歩くとそこそこ距離があるように感じられる。

 静かなトンネル内に二階堂の足音だけが響き渡り、その反響音もまた不気味さに拍車をかけていた。

 ちょうどトンネルの真ん中辺りまで来たところで二階堂は立ち止まった。視線の先には、小さな瓶と枯れた花が置かれている。

「まったく……」

 二階堂は呟くように言うと、その瓶から枯れた花を抜き取り、地面へと投げ捨てた。

 トンネルの天井から奇妙な音が聞こえてきたのは、その時だった。

 ズズ……ズズ……。それはまるで何かを引きずるような音に似ていた。

「先生っ!」

「わかってるよ」

 二階堂はそう言ってトンネルの天井を見上げる。

 奇妙な音は次第に大きくなっていき、トンネルの天井が波打つように揺れる。トンネルの天井にあった染みのようなものが集まってきて、目、鼻、口と人の顔のようなものを形成していく。悲しげな女の顔。それがはっきりとわかるようになった時、天井から声が降ってきた。

「なにをするの!」

 はっきりとした声が聞こえた。その声は妙に響きがあり、そして耳障りで不愉快な声だった。

 あまりにも不愉快な声に、ヒナコなどは耳をふさいでしゃがみこんでいる。

 天井に現れた女の顔は歪みながら、時おり、叫ぶ男のような顔に変化したりした。

 二階堂はその天井の顔を睨みつけるような目で見上げると、先ほどはずしたメガネを掛け直した。

「お前のものではないだろう」

「あれは、わたしのために、そなえられた、はな」

 女と男の声が重なり合うようにして聞こえてくる。

 そして、その声の波長は非常に不愉快だった。

「バカなことを言うな。誰かが勝手に作り上げた与太話に乗っかっただけだろう」

「どうして、そんなことを、いうの」

「誰かの作り話に乗っかって、呪いを発動させようとするなんて、趣味が悪いからだよ。あんたらみたいな低俗な連中は、こういう形でしか呪いを発動できないのか?」

「うるさいっ!」

 天井に現れた顔の形は唇をワナワナと震わせながら、怒鳴るように言った。

「どうやら、図星だったようだな」

 二階堂は笑いながら言うと、右手の人差し指でズレかけていた眼鏡を押し上げた。

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