四つ辻にて待つ(7)
悪霊や呪霊というものは、この世への未練が断ち切れずにそうなってしまうパターンが多い。
しかし、中には彼女のように自分の意思とは別で悪霊や呪霊となってしまう場合もあるのだ。その背景には生者のエゴがあったりする。
「もうこれで、大丈夫だろう。この四つ辻には結界も張ったし、四門もきちんと復活させた。もう、妹さんのところに女の霊が現れることもないはずだよ」
御神酒を撒き終えた二階堂はそう言うと、微笑んでみせた。
「本当にありがとうございました」
杉崎スミレはそう言うと、深々と二階堂に頭を下げる。
「あ、メガネ返して」
二階堂は手を伸ばすと、スミレがかけっぱなしだったメガネをそっと外す。
「え、あ、すいません……え?」
杉崎スミレが困惑の声をあげた。
なぜなら、先ほどまで一緒にいたはずのヒナコが姿を消してしまったからだ。
「あ、あの、あの女の子は?」
「ん? ああ、ヒナコのことか。そこにいるよ。いまは見えないかもしれないけれど」
二階堂はそう言うと、メガネをスミレの顔の前に近づけてみせる。
するとそのレンズの中にはヒナコの姿があった。
「彼女は俺の助手なんだ。ただ、こちらの世界の人間ではない。普通の人間が彼女を視るのは難しいんだ。それだけだよ」
そうスミレに二階堂は説明すると、隣に立っているヒナコに微笑みかけた。
これで杉崎スミレからの依頼に関してはクローズとする。
匿名掲示板に書き込みをしていた鬼門晴明に関しては、こちらの誘いには乗ってこず、その後姿を現してはいない。
ネットでは少し前に自殺した人気アイドルの鈴原りんが、二人組の男子高校生配信者の生配信放送に映り込んだなどという根も葉もない噂が流れたりしたが、その噂もいつの間にか消えて無くなっていた。
二階堂はいつものようにアルバイトに励んでいる。これは食べていくためにやらなければならないことであり、本業ではない。本業はあくまで探偵なのだ。
休憩中、二階堂のスマートフォンが着信を告げた。
「はい、二階堂です。ええ、探偵の二階堂です。わかりました、では喫茶店で」
電話を切ると二階堂は大きく伸びをしてからつぶやいた。
「また、忙しくなるぞ、ヒナコ」
誰もいない休憩室。視えない人からすれば、ただ独り言をつぶやいただけにしかみえなかった。
四つ辻にて待つ 了