第8話 説得してみた
ショッピングモールに怪異が現れた。学校の時もそうだったけど、昼飯の時に来るのやめてくれねえかな。人が多い場所でしかも人が多い時間帯だからってことだろうけども!
結界の中にいる間ならば、怪異がいる場所が気配で分かるようになるため、わざわざ探す必要はない。
今度の場所は屋外広場。さっきのレストランからは逆方向なので、またもや全力ダッシュをしなければならない。
桜野さん達が結界を張った後に行動を起こすことになるので、どうしても後手に回ってしまう。俺も結界を張れるけど、それだと二人を惑わせてしまうかもしれない。
俺が到着した頃にはすでにバトルが始まっていた。怪異は様々な姿で現れる。今度の怪異も人型で、剣と盾を装備しており、その姿はさながら騎士のようだ。
いつものように桜野さんが魔法弾を放つが、ことごとく盾で防がれる。
蒼月さんは接近して青いオーラをまとった打撃を加えようとするが、近づくと剣でけん制されるため、なかなか攻撃ができずにいる。
アニメでは強い部類の怪異だ。だけど俺にとってはそんなことは関係ない。
俺は二人と怪異の間に割って入り、二人に背中を向けたまま声をかける。
「こいつの相手は俺がする。二人は下がっていろ」
本来ならこんな言葉遣いはしないんだけど、今の俺はフード付き漆黒のローブに不気味な仮面という姿。
そんな奴が丁寧な言葉遣いだと、逆に不気味なんじゃないだろうか。雰囲気って大事。
「えっ……、誰?」
「あなたはこの前の……!」
背中越しにそんな言葉が聞こえてくる。そうだ、俺にとってはこの二人との会話が大切だ。だから——
「邪魔だっ!」
俺は魔法で具現化した剣を、怪異めがけて振り抜いた。
すると怪異は見事に真っ二つになる。そして怪異が光り始めたとほぼ同時に回収した。
「すごい、一撃で……!」
二人からの称賛を背中で受け止めた俺は、振り返って「怪我はないか?」と確認する。そして返ってきたのは桜野さんからの言葉。
「はい、大丈夫です。あの、あなたは……?」
「俺は……まあ好きに呼べばいい。それよりも、お前達はもう戦ってはいけない」
女の子に向かって『お前』なんて、本当は言いたくないんだけど。威厳というやつだ。
「えっ……?」
いきなりそんなことを言われた桜野さんは、困惑した表情を浮かべている。
「待って! この前も似たようなことを言っていたわよね? どういうことなの……?」
蒼月さんは真っ直ぐに俺の方を見ており、桜野さんと比べると少し落ち着いている。
「氷奈、この人のこと知ってるの……?」
「ええ。実は——」
蒼月さんは桜野さんに、俺とは初対面ではないこと等を説明した。
「そうだったんだ……。あの時私、気を失ってたんだもんね。だから氷奈の様子がいつもと違ってたんだね」
「本当は相談しようかずっと迷っていたの。それが逆に心配をかけてしまったのね。隠していて本当にごめんなさい……」
「ううん! 全然気にしてないよ! だって氷奈、私を困らせたくなくて言わなかったんだよね。私のことを思ってくれたってだけでも、私が氷奈にお礼を言いたいくらいだよ!」
「桃華……」
少しの間見つめ合う二人。それが終わると、今度は桜野さんが俺の方を向いた。
「それで、私達が戦ってはいけないってどういうことなのかな? 君は私達の事情を知ってるってことでいいの?」
「そう思ってくれて構わない」
「心配してくれるのは嬉しいけど、私達はこの街のために戦っているんだよ」
「それは自ら望んだことなのか?」
「えっ、それは……」
そうだ。二人とも自らが望んで魔法少女になったわけじゃない。
でもそうするしかなかったということも俺は知っている。
もう二人は魔法少女としての役割を十分に果たしたじゃないか。
「ハッキリ言おう。お前達は騙されている」