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最終話 第二期があるとしたら

 推しと付き合える。それはきっと夢のようなことに違いない。

 そして今隣にいるのは『彼女』。転生前にテレビで観ていた憧れの存在。緑川さんへの告白が成功したんだ。


「よかった……! 実は俺、告白したの初めてなんだ」


「私も……告白するのもしてもらうのも初めてです……!」


「それならお互い初めてということになるね」


「そうですね。なんだか嬉しいなっ!」


 隣で彼女が笑う。それは魔法少女として見ていた時とはまた違った笑顔で、今までで一番輝いて見えた。


「暗くなってきたしそろそろ帰ろうか」


「はい」


 真夏とはいえ、夜は来る。夏祭りが終わり、この公園から見える限り帰る人の数もまばらになっていた。俺にとって忘れたくない一日が終わろうとしている。


 俺がベンチから立ち上がると、彼女も立ち上がった。

 そして俺はそっと手を差し出した。「手をつないで帰ろう」。あとはその一言を言えばいい。


 だけどその一言は必要なかった。俺が差し出した手と、彼女が差し出した手が優しくぶつかったから。

 お互いに何も言わない。何も言わなくとも二人の手は、しっかりとつながれていた。




 それから何日か経ち、俺は今とあるカフェにいる。それは初めて四人の魔法少女全員と一緒に過ごした場所。


 俺の隣には彼女が座り、あとの三人とは対面して話している。率先して口を開いたのは陽山(ひやま)さんだ。


「一条君から声かけてくれるなんて珍しいねー。そんなに私に会いたかったのかなー?」


「違います」


 陽山さんは相変わらず俺をからかってくる。そこに悪意なんて無いことは分かってるけど、俺はワザと真面目に返した。


 そんな返事にも「めっちゃ真面目じゃん!」と、笑ってくれるギャル先輩。きっと俺の返事を予想して、リアクションを用意してくれていたんだろう。


「もう、小夏さん。一条くんをからかったらダメじゃないですかー。ホントは夏休みだから寂しかったんだよね!」


「確かにそれはあるかな」


 あれはツッコミ待ちだったのか? 桜野さんのことだから本気で言ってた可能性もある。だから本当のことを言った。


「桜野ちゃんが言うと認めるのになんで私には『違う』ってハッキリ言っちゃうの!?」


 そう冗談めかして言った陽山さんの言葉に、全員がそれぞれ笑いの表情になった。本当に楽しい女の子達だ。


 そして蒼月(そうげつ)さんはというと、何も言わない。俺と同じく、もともと多くは語らないタイプ。

 だから表情から読み取ることが必要なんだけど、ずっと俺を見てるだけ。要するにサッパリ分からん。まあ悪い子じゃないことは確かだ。


「実は三人に報告があって」


「四人じゃないんだねー。そうすると若葉は一条君が話そうとしてること、知ってるんだ?」


 陽山さんからの問いかけに、彼女は恥ずかしそうに頷いた。


「俺と緑川さん、付き合うことになりました」


「私からもみなさんにご報告しますっ……!」


 三人には伝えないといけない。というより、伝えたかった。


「うん、おめでとう!」


 きっと陽山さんは俺と彼女の様子を見て、すぐに分かったんだろう。


「えええぇーっ! そうだったの!? 一条くんと若葉ちゃん、いつの間に!」


 桜野さんは純粋な驚きを見せた。もしかしたら、恋愛のことはあまり考えてないのかもしれない。それはそれで桜野さんに彼女になってもらいたい人は大変そうだ。


 蒼月さんは……、無言!


(なんでもいいから何か言ってくれー。無言って(こえ)ぇ……)


「おめでとう。私も緑川さんはとても魅力的な子だと思うわ。だから一条君、彼女をたくさん笑顔にしてあげてね」


 そう思ってたらお祝いしてくれた。だけどなんだかプレッシャーをかけられてるように聞こえてしまう。

 これはいかん、俺の中で『蒼月さん=怖い』という式が完成されている。どうしてこうなった。そんなものは今すぐ破壊だ!


 それからは経緯を聞かれたり、お互い意識した瞬間を聞かれたり、まるでインタビューを受けている気分だった。

 そんな中でも、みんなから伝わってくる優しい雰囲気。きっとこの魔法少女四人だからこそ作り出せる空間。その中にいることができる幸せを俺は今、改めて感じている。




 かつて彼女達は魔法少女だった。そして人知れず戦ってきた。誰に褒められることもない。お礼を言ってもらえることもない。

 だけど彼女達は一人じゃなかった。とはいえそれでもたった四人だったんだ。本当に強い女の子達。


 でも今は普通の女の子。彼女達もそれを望んでいた。俺は少しその手伝いをしただけ。決して俺だけの力じゃない。


 俺だけに残っていた魔法の力は、いつの間にか消え去っていた。あの力だってハラグロから与えられたもので、いわば借り物だ。魔法がなくても人は生きていけるんだ。

 それにハラグロに関係するものがずっと残るのも、いい気分じゃないからよかったと思ってる。



 その後も俺と彼女は夏休み中にデートを重ね、二学期が始まった。

 彼女とは学校が違うけど、それはそれで学校終わりに会う楽しみができた。


「今日も一日が終わったねー! 一条くんは今日も若葉ちゃんに会いに行くの?」


「うん、そうだよ」


「いいなー。でもっ! 今日は私もデートなんだよ! ね、氷奈(ひな)?」


「まったく、桃華(とうか)は何を言っているのかしら? 一緒にカフェに行くだけじゃない」


「えー、氷奈は私とじゃイヤなのー?」


「そっ、そんなこと言ってないじゃない……! 私も桃華と話すの楽しいもの」


「えへへ、氷奈、好きー」


「ちょっ……! くっつかないの!」


(尊い……!)



 そして俺は電車に乗り彼女のもとへ。駅ではすでに彼女が待っていてくれた。


「いつも待っててくれてありがとう」


「大丈夫だよ。その……私も早く会いたくって!」


 転生前の世界では、このアニメの第二期はまだ放送されていない。おそらくハラグロとの戦いが描かれるのだろう。


 だけどこの世界の第二期はきっと違う。そもそも現実だ。

 それでも、もし第二期があるとしたら、それはきっと俺と彼女、二人で紡ぐ物語になるだろう。


(了)

完結しました!ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!

もしよければ他の作品もよろしくお願いします!

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