第67話 ギャル圧
「変なことを聞くようですけど、陽山さんは『ナイト』って知ってますか?」
「うん、知ってるよ。一条君でしょ?」
バレてた。
(マジか……。いや、待てよ? これはカマかけだな。陽山さんは俺をからかうようなところがあるからなぁ)
「えっと、なんのことでしょうか」
「おぉ、そうくるんだねー。だけどこの話を始めたのは一条君だよ? 私に何か言いたいことがあるんじゃないの?」
そうだった。俺からナイトの話を振っておいて「知りません」は無理がある!
「えっと、いつから気付いてたのでしょうか?」
「んー、いつからっていうよりは、一条君といる時に怪異がよく出るなーとは思ってたんだよね。しかも一条君がいなくなってからすぐに出てたからね。だからなんとなく不思議だなって思ってたんだよ。さらにそれからすぐにナイト君が来るんだから、それはもう怪しいよね」
「まあ確かに俺もタイミングが良すぎるとは思ってましたけど。でもすぐに駆けつけるためには一緒にいるのが一番いいと思ったんです」
「なるほどねー、だから私をデートに誘ってくれたのかぁ。もちろん覚えてるよね?」
なぜ「もちろん」って付いてるのかは、なんだか怖いから考えないことにしよう。
「もちろんですよ。一緒にアミューズメント施設に行きましたね」
その目的は、陽山さんが怪我をしてしまうアニメ第六話の内容を変えるためだった。
「うん、ちゃんと覚えてて偉い偉い。そこで私は君に助けてもらったんだよね」
「あの、もしかしてあの時すでにナイトが俺だって気付いてました?」
これは非常に重要な質問だ。俺はずっと正体バレしてないと思い込んで、ナイトとして振る舞っていた。
でも、もしもあの時から陽山さんが気付いていたのなら、そんな俺はさぞかし愉快に見えていたことだろう。もしそうなら超恥ずかしい。
「ううん、あの時はまだ分かってなかったよ。むしろ一条君が心配だったんだから」
「だとすると、いつ俺が怪しいと思いました?」
「みんなで海に行った時だね。さすがにタイミング良すぎだってー」
「だって俺が遅れて誰かが怪我したら、俺がいる意味がないですからね」
「お、言うねぇー! でも一条君がナイト君として振る舞ってる姿、面白かったよ。バレてないって思ってたでしょ?」
「今すぐその記憶を消してもらいましょうか」
「えぇー、別にいいじゃん」
「よくないですよ」
「私はむしろ一条君がんばってるなって思ってたんだからね」
「本当ですか?」
「ホントだってー。……ねぇ覚えてる? 私達全員がハラグロが用意した謎の空間に移動させられた時のこと。私はあの時、ホントはすごく不安だったんだ。でも隣に君がいたから、すごく安心したの」
これまでとは違い、陽山さんの雰囲気が真剣なものへと変わった。
「あの時だけじゃない、君はいつも私達を助けてくれていたんだね。もしも君がいなければ、きっと私達は今もハラグロに騙されたままだったよ。だからありがとね、一条君」
そう言った陽山さんは満面の笑みで俺を見ていた。
「どういたしまして」
(とりあえず終わったかな)
思っていたよりはスムーズに打ち明けることができた。あとは緑川さんだけか。
「ねぇ一条君、蒼月ちゃんにはもう話したの?」
「どうして蒼月さんの名前が出てくるんですか?」
「え、気付いてないの? だって蒼月ちゃんだけ明らかに君を見る目が違ってたよ。私達四人でいる時だって、チラチラと君を見てたじゃん」
あー、陽山さんも気が付いてましたかー。よく見てるなぁ。
「蒼月ちゃん、もしかして一条君のこと好き——」
「それは無いと思います」
「めっちゃすぐ否定するじゃん!」
「だって蒼月さんはナイトが俺だって気が付いてなかったですからね」
「そっかぁー。それならナイト君を好きってことになるよねー」
そう言った陽山さんはコーヒーを飲もうとしたけど、まるで何かを思いついたかのように慌てて口を開いた。
「それならちゃんと説明しないと! 勘違いさせたままじゃダメじゃん」
「はい、なので昨日説明しました」
「説明って、どこで?」
「蒼月さんの家です」
「なんで? まさか二人きりで? 付き合ってるの? 他に誰かいたの? 若葉は?」
(え? 急に質問攻めになったんだけど……。それになんで緑川さんの名前が?)
陽山さんと緑川さんは幼馴染みで、陽山さんは何かと緑川さんのことを気にかけているみたいだからな。
「夏休みの宿題をしに行っただけですよ。桜野さんも一緒でした」
「そっか、桜野ちゃんも一緒だったんだねー。……ねぇ、若葉は?」
「え? いや、俺は桜野さんに誘われただけでしたから」
「そっか。それで蒼月ちゃんは納得してくれたの?」
「俺としてはそう思ってるんですけど、実際のところは分かりません」
「蒼月ちゃんはしっかりとした説明を求めるタイプだからねー」
「あの、陽山さん。ずっと騙してたみたいになって、すみませんでした」
「何言ってるの。私達のためにしてくれたことなんだよね? だったら謝んなくていいってー」
陽山さんはそう言ってニカッと笑う。
『ギャルは怖い』。それは俺の偏見だった。陽山さんと接するようになって、俺の中でのギャルのイメージが変わった。ギャルだって優しい。
(ビンタされなくてよかった……!)
「ねぇ一条君」
「なんですか?」
「若葉を大切にしてあげてね。もし泣かせたら……!」
(え? 怖っ……。ギャル怖っ……)
緑川さんのことになると、なぜか圧が強くなる陽山さんだった。
ともあれ、あとは緑川さんだけだ。