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第65話 しっかり覚えてた

 俺は二人の目の前でナイトに変身した。


「うそ……? ホントにナイトになっちゃった……!」


「どうやら本当みたいね」


 驚く桜野さんとは対照的に、蒼月(そうげつ)さんは冷静に見えた。


(怒ってはいない……のか?)


「でもホントに一条くん? 顔が見えてないよー?」


 そうか、仮面をつけてるんだった。俺は不気味な仮面を取って、二人に素顔を見せた。そして今の俺は素顔に漆黒のローブという姿。


「一条くんだ……!」


 さらに驚く桜野さん。どうやらナイトの正体には全く気が付いていなかったようだ。ある意味、素直で普通の反応だろう。

 気になるのは蒼月さんの反応だけど、見る限り表情は普通。というか何考えてるか分からない。


 俺は「隠してて本当にごめん」と再び心から謝った。


「そんなっ、一条くんが謝るようなことは何もないと思うよ! だって私達を助けてくれたことに変わりはないんだから」


「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ」


氷奈(ひな)もそう思わない?」


「そうね。私も桃華(とうか)の言う通りだと思うわ」


「蒼月さんもありがとう」


 意外なことに蒼月さんも桜野さんにあっさりと同意した。気を張ってただけに少し拍子抜け

に思えるけど、ともあれこれで二人には本当のことを明かすことができて一安心。


「でもね、一条君。あなたには説明する義務があると思うの」


 どうやら蒼月さんの言葉には続きがあったようだ。でも確かにごめんの一言で済ませられるようなことじゃないな。


「もちろん説明させてもらうよ。まず俺が転校してきた日の夜、つまり桜野さんと蒼月さんに初めて会った日の夜、俺のもとにハラグロが現れたんだ」


 それは俺にとっても想定外だった。確かに魔法少女達を救う方法が無いことに悩んではいたけど、まさかハラグロが来るとは。


「そしてハラグロに言われたんだ。俺には魔法使いとしての素質がかなりあって、最強の魔法使いになれるってことを。それから俺はハラグロから桜野さん達のような魔法少女がいることを知らされた。その事情も一緒にね」


 俺は真実を話すつもりでいる。だけど、だけれども、どうしても言えないことがある。

 それは俺が転生者で、俺の前世では桜野さん達はアニメの中のキャラクターだということだ。


 あまりに突拍子もない話であることも理由の一つだけど、それを告げられた側はどう思うだろう?


 ある日突然、自分達の住む世界はアニメの中の世界で、そこで暮らす人々は自分を含めて作り物だと知らされたら。

 そしてその様子を別世界の住人に娯楽として見られていたと知ったら。


「何バカなこと言ってんの」と笑い飛ばしてくれればそれが一番いい。俺がおかしな奴だと思ってくれてもいい。

 だけどこの世界の人全員がそう思ってくれるとは限らない。特に桜野さんは本当に心配になる。


 俺は本人達から聞いていないのに魔法少女達の事情を知っている。それならば全部ハラグロから聞いたことにするのが一番いいと思ったんだ。だから俺は心の中で謝りながら説明をする。


「だけど俺には話を聞く限り、ハラグロを信じることはどうしてもできなかったんだ。桜野さん達がそれぞれ家族や自分の危機の時に都合よく現れすぎてることとか、『世界を救ってほしい』と言っておきながら核心に迫ることは言ってないこととかね」


 二人とも真剣に話を聞いてくれている。


「そして俺はハラグロに怪しまれないよう、あえて桜野さん達に正体を明かさず関係ないように見せかけて、手助けをしていたんだよ」


「そういうことだったんだ……。つまり正体を隠していたのは、一条くんと私達に繋がりがあるとバレないようにするためで、その理由は私達がハラグロから危害を加えられないようにするためだったんだね」


 俺は静かに(うなず)いた。どうやら桜野さんは理解してくれたみたいだ。


「そう。そういう事情があったのね」


 蒼月さんも納得してくれてるっぽい。これで説明が終わったと考えていいのかな?


「一つ聞かせて」


 否。まだ終わっていなかった。


「映画館の近くでゴーレム型の怪異が現れた時のこと、覚えてる?」


 それはアニメでいうと第三話。蒼月さんが一人で映画館に来ていた時のこと。俺はアニメで知っていたから、蒼月さんを説得するため先回りしていたんだ。


「もちろん覚えてるよ」


「あの時ね、私、あなたから『俺はお前に会いに来た』って言われたの。あれはどういう意味だったのかしら?」


「あれは桜野さんの説得に協力してほしいと言いに来たって意味だったんだよ」


「そう。確かにあの時はまだ桃華はナイトのことを信じていなかったわね。だけどね、言葉選びというものがあるじゃない?」


「え? あ、うん、そうだね。確かに紛らわしい言い方だったかな」


「それにね、私あの時あなたに抱きかかえられたの。もちろん怪異の攻撃から私を守ろうとしてくれたことは分かってるわ。だけどね、そのまま『俺を頼ってくれるか?』なんて言われたら、恥ずかしくて顔を背けたくなるじゃない」


「そ、そうだね。勢いで言ってしまった感はあるかもしれないね」


「それから私を優しく地面におろしてくれて、あなたはこう言ったの。『俺のところへ来るんだ』と。それって特別な意味があるように思えない?」


「えっと……、確かにそれは俺の言い方が悪かったって、あの時に思ったよ」


「そして最後にね、あなたは私に言ったのよ。『俺にはお前が必要なんだ!』って。それってもうプロポーズだと思うの」


「そ、それについては酷い間違え方だなって思ってるよ」


「だからね、私は責任をとってほしいの」


「は、はい……。しっかり責任とらせていただきます……」


「なんで敬語!?」


 黙って聞いていた桜野さんのツッコミとともに、今度はもっと細かい説明をすることになった。


 どうやら蒼月さんの言う『責任』とは、しっかり順序立てて説明をしてほしいということのようだ。

 もっとも、俺がナイトとして言われた時もそういう意味で言ったのかは、蒼月さんにしか分からない。


 確かに俺は話せばきっと分かってもらえると思っていた。だけどまさか小一時間ほど喋り続けることになろうとは……。ちょっと声枯れたし。だけど一応、納得してくれたみたい。


(もしかしてあと二人分も同じことしないといけないのだろうか……?)

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