第64話 サブヒロイン?
思わせぶりな行動をとる男が出てくる恋愛ドラマを見た蒼月さんいわく、「許せるわけないじゃない」とのこと。
そして多分俺は「許せるわけない」ことをしているはずだから、俺がとるべき行動は、ナイトに変身するところを見てもらい説明して謝ること……で、間違ってないはず。
できるだけ自然な流れでそういう方向にもっていこう。
「えーっと、蒼月さん、どうして許せないと思うの?」
「だってドラマを見る限り、あの女性はあの男性のことが好きなのは明らかだったわよね。あの男性だってそれは分かっていたはずよ」
「それはつまり自分への好意に気がついておきながら、相手の女性に希望をもたせるような言動や行動をしたことが悪いということかな?」
「その通りよ。一条君もそう思うわよね?」
「そうだね、そう思うよ」
平静を装って返事したはいいものの、俺が今からしようとしていることのハードルを自ら上げているようなものだ。
だけど思わせぶりは良くないと思ってるというのは本心なんだ。
「蒼月さん、もしかするとその一方でさ、男のほうにも悪気は無かったのかもしれないよ? 例えば誰にでも優しい人だからとか、恋愛的な意味じゃなくその人のためを思ってとか、そういった可能性は考えられないかな?」
「そうね……。確かに一方的に決めつけるのは良くないわね」
「そーそー! やっぱりまずはお話を聞いてみなきゃいけないよね! いろいろ考えるのはそれからだよ」
桜野さんのナイスフォローが入った。魔法少女だった時といい、ふんわりした雰囲気なのにどこか頼れるから不思議だ。この子がアニメの主人公になるのも納得できる。
「来週の放送分でその辺りのことが分かるかもしれないから、待つことにするわ」
これで少しは打ち明けやすくなっただろうか?
そしてドラマ鑑賞が終わり、俺達は夏休みの宿題に取りかかった。俺は宿題をしながらも、どうやって話を切り出そうか考えることに集中していたので、宿題の答えが間違いだらけになっているかもしれない。
そうこうしているうちに、夕方になった。桜野さんは泊まるようだけど、まさか俺までもが泊まるだなんてラブコメ展開にはならないよな? もし誘われたらどうしようなんて考えるのは無意味だろう。……ワンチャンあるか?
「もうこんな時間かぁー。そろそろ晩ご飯のことを考えないとね」
「そうね、準備を始めようかしら。桃華、手伝ってくれる?」
「りょうかーい!」
どうやら二人の間ではすでに何かが決まっているらしい。多分何か作るのだろう。
「それじゃあ俺は帰るよ」
「えっ!? せっかくだから一条くんもご飯食べてから帰ろうよー」
「そうよ。材料は人数分買ってあるもの」
宿題をしに来ただけなのに、まさか美少女二人の手料理を食べられるとは……!
そして俺も泊まるという可能性は無いということがサラッと確定した。そりゃそうか。
「できたら持って来るから待っててね」
そう言って二人は部屋から出て行った。女の子の部屋に一人きり。何して過ごせばいい?
ところがそんな贅沢な悩みは思わぬ形で解決することに。
俺が部屋で固まっていると、ガチャリとドアが開き、女の子が姿を見せた。
「ずいぶん早かったね蒼月さん」
「蒼月さん? 私は瑠奈だよ」
それは蒼月さんの妹だった。青髪ポニーテールの小学五年生。それから当たり前のように俺の正面に座った。
「えっと、俺に何か用事かな?」
「お姉ちゃんと桃華さんが一条さんの話し相手になってあげてって」
優しい二人。だけどその気遣いが逆にツラい……! 小学生の女の子と何話せばいいんだ?
「一条さんはお姉ちゃんの彼氏さんなの?」
脈絡いっさい無し! もし俺が今何か飲んでいたら、『ブフォッ!』と吹き出していたに違いない。
「違うよ。蒼月さんとはクラスメイトなんだ」
「そうなんだー。家に来るぐらいだから、てっきりそうなのかと思っちゃった」
「今日は桜野さんが誘ってくれたんだよ」
「桃華さんかぁー。私、桃華さん大好きなんだよ」
「そうだね、俺も桜野さん好きだよ。本当にいい子だと思うよ」
「あれぇー? 一条さんはお姉ちゃんのことが好きじゃないの?」
めちゃくちゃ踏み込んで聞いてくるなこの子。
「もちろん蒼月さんも好きだよ」
「それってお姉ちゃんと桃華さんどっちも好きってこと?」
「そうだね、二人とも本当に優しくて友達として好感がもてるよ」
「ダメだよ、二人一緒だなんて」
「えっと、何の話をしているのかな?」
「お姉ちゃんと一緒に観たドラマでも言ってたよ。お付き合いするなら一人じゃないといけないって」
(うーん、ドラマの影響が強いのかなぁー。それにしても蒼月さん、妹と恋愛ドラマ観てるんだ)
その後もいろいろ話しているうちに、二人が部屋に戻って来た。妹さんは見事に俺の話し相手になってくれていたというわけだ。
まあ、蒼月さんが恋愛に興味があるということが分かったかな。
「またね、一条さん」
そして部屋の中は再び三人になった。ローテーブルには三人分のカレーが並び、いい香りが流れる。
「美味そう。二人とも料理得意なんだ?」
「得意なのは氷奈だけで、私はちょっと手伝っただけだよ」
「そうなんだ。俺からすれば二人とも凄いと思うけどね」
そしてカレーを口に運ぶと、ほどよい辛さと旨みが広がり、スプーンを持つ手が止まらなくなる。
「美味かった、ごちそうさまでした」
「喜んでもらえたようでよかったわ」
「えへへっ、やったね」
二人が喜んでくれたところで、本当に帰ったほうがいい時間になった。
このまま帰ったところで、問題が先延ばしになるだけだ。ここまで来たんだから、今日中にナイトのことを明かそう。
「帰る前に二人に話があるんだけど」
「えっ、何かなー?」
「そんなに改まって、いったい何かしら?」
最初は蒼月さんだけに話そうと思っていたけど、やっぱり魔法少女達に隠し事をしたままにするのはよくないと、考えが変わった。結果的に全員無事だったわけだし。
「えっと、二人は『ナイト』って知ってる?」
「うん、『夜』ってことだよね? 英語の宿題にそんなのあったかな?」
「あー、俺の聞き方が悪かった。俺が言ってるのは、『ナイト』って人物のことね」
「どうして一条くんがそのことを知ってるの?」
あれこれ考えて疲れた。結局どうするのがいいか分からん。もう作戦も何もない。ここまで来たらストレートに言おう。
「えーと、それは、俺がナイトだからだね」
そう言った俺はすかさず蒼月さんの反応を確認! 果たしてどんな言葉が飛び出すのか……?
「そう、一条君がナイト……。本当なのかしら?」
「隠してて本当にごめん。あ、そうか、証拠がいるね」
そう言って俺は二人の目の前でナイトに変身した。
「うそ……? ホントにナイトになっちゃった……!」
「どうやら本当みたいね」
驚く桜野さんとは対照的に、蒼月さんは冷静に見えた。