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第61話 経験値ゼロなのに

 俺は無事ハラグロを倒し、魔法少女全員を戦いの日々から解放することができた。


 だけど彼女達の去り際、一人だけ残った蒼月(そうげつ)さんの艶っぽいくちびるが俺の耳元に迫り、ボソッと一言。


「責任、とってくれるのよね……?」


(え? 怖っ……!)


 怖すぎるASMRに、俺にはまだ安息の日々は訪れないことを知らされた。おかしいな、ASMRは癒されると聞いているのだが……?


 可愛い女の子からのささやきボイスなんて、本来なら飛び跳ねて喜ぶことだろう。

 だけどこれはそんないいものじゃない。俺の耳にかかる蒼月さんのわずかな息や、いい匂いを楽しむ余裕なんて、これっぽっちも無い。耳が不幸せとはまさにこのこと。


 突然のことだったので、俺は去り行く蒼月さんの後ろ姿を見送ることしかできなかった。


(真のラスボスがここにいたとは……)




 その日の夜9時、俺はあえて明かりを消した部屋のベッドの上に横たわり、今後の方針を考えることにした。


 俺がナイトであることは魔法少女全員に伏せている。その理由は優しい彼女達ならきっと、ナイトの正体が俺だと分かれば、俺に負い目を感じてしまうだろうから。


 だからナイトの正体は謎のままにしておくつもりだったけど、少なくとも蒼月さんにだけは知らせないといけない。


「俺にはお前が必要なんだ!」


 これは俺がナイトとして蒼月さんに言ったセリフである。なんとこれで告白じゃないんだから驚きだ。


(一緒に桜野さんを説得してほしい一心で言ったことが、こんなことになるとは……)


 思わせぶりというやつだろうか? 経験値がなさ過ぎてサッパリ分からん。でもやっぱり俺が悪いよなぁ……。


 相手にキッパリと意思表示をするのも優しさだと、確かネットで見たことあるな……。

 それに俺が蒼月さんに本当のことを正直に話すのも責任といえるんじゃないだろうか?


 そうなると、やはり蒼月さんには本当のことを打ち明けよう。蒼月さんも優しい女の子だ、きっと分かってもらえるさ。


 しかし困ったことに夏休みが始まったばかりで、ヘタをすれば蒼月さんと一ヶ月以上も会わないことだってあり得る。


 だからって俺から蒼月さんを誘えば、それこそ思わせぶりになるかも? いやいや、それじゃまるで蒼月さんが俺のことを好きみたいじゃないか。俺はいつからそんな偉くなったんだ?


 そもそもナイトとして会わないと意味が無いのか。考えれば考えるほど分からなくなる。


(何かいい案はないものか……)


 そんなことを考えていると、枕元にあるスマホがぼんやりと光った。何かメッセージが届いたのだろうか?


 画面を見ると、桜野さんからのメッセージが届いていた。


『いきなりだけど明日、氷奈ひなの家で夏休みの宿題をすることになったんだ。もしよかったら一条くんも来る?』


 さすが桜野さん、フレンドリーだな。あの子の性格を考えると、きっと大勢のほうが楽しいよねってことなんだろう。

 声をかけてみようと思ってくれることが俺は嬉しい。……あれ? 待てよ……?


(蒼月さんの家で、だと……?)


 これは千載一遇のチャンスと考えるべきか、それとも「早く本当のことを話せよ」という神の意思なのか。


 敵を知るにはまず味方から。まずは蒼月さんの考え方や人となりをもう少し知ることから始めてみよう。……いやいや、『敵』って。蒼月さんも優しくていい子だ。そんな子のことを敵だなんて、失礼なことを考えてしまったな。


(あ、でもラスボス認定してた……。ごめん、蒼月さん)


 俺は少し時間をおいてから、桜野さんに『ぜひお願い致します』と返信をした。

 すると桜野さんから『なんで敬語!?』というツッコミとともに、集合時間や持ち物など細かなことが書かれた返信があったので、俺が『了解』と返してメッセージのやり取りが終了。


 こうして俺は人生初、女の子の家に行くというイベントのフラグを立てることになった。全然楽しめそうにないけど。

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