第60話 ざまぁが終わったけど……?
ハラグロは跡形も無く消滅した。ハラグロが欲しがっていた負の感情のエネルギーによって倒されるという皮肉。
(何も残らないだけゴミよりマシかもな)
変身をしている時はハラグロからも怪異と似たような気配を感じることができていた。
だけどさっきからその気配は微塵も感じなくなっている。
俺の変身が解除されたわけじゃない。それは紛れもなくハラグロがいなくなったということだ。
俺は今までのことを振り返った。桜野さんと蒼月さんと同じクラスになった初日に怪異との戦いを目撃して、その後俺も魔法が使えるようになった。
それから陽山さんと緑川さんとも出会って仲良くなった。
そういえば全員の試着の感想を言ったりもしたっけ。
そして緑川さんと二人でデパートに出かけた。俺の人生初デートになったんだ。あの日は本当に楽しかったな。
別の日には陽山さんと遊びに行ったっけ。俺から誘ったけど、それは陽山さんがアニメの通りにケガをしてしまうことを防ぐためだった。
もしかしたらその時に、ナイトの正体が俺だと疑われ始めたのかもしれない。
それで外堀が埋まって、五人で海に行った。ドラゴン怪異との戦いや俺の闇堕ち体験があったけど、それでも楽しい記憶の方が強い。
期間にすれば三ヶ月ほど。転生前の人生より何倍も濃くて楽しい時間だった。
(でもそれもここまでかも……)
ハラグロがいなくなっても、ここから出られる兆しは全く無い。どこまで進んでも深い闇が広がっているだけだ。
闇堕ち体験をした時は、魔法少女達が俺に声をかけ続けてくれたから脱出することができた。彼女達の声が光となり道しるべとなったから。
だから俺はここに残る前、彼女達に頼んでおいたんだ。「眠っている俺に声をかけ続けてほしい」と。
それはとても対策とは呼べないような方法かもしれない。彼女達にだって負担をかけてしまう。それでも俺は彼女達のもとに帰りたい。
俺は辺りを見回して、何か変化がないか探す。すると遠くの方に、本当にわずかな光が差しているのが見えた。
「——くん! ナイトくん、起きてっ!」
近くに行くとその光から声が聞こえる。それはもはや聞き慣れた、とても安らぎを感じる声。桜野さんの声だ。
「早く起きて! あなたがこのままなら私はどうすればいいの?」
これは蒼月さんの声だな。なんかちょっと気になる部分はあるけど、本気で心配してくれている。
「早く起きないと置いてくよー! そうだ、起きたらみんなでプールに行こう!」
陽山さんの声。プールかぁ……。二度目の水着ハーレム最高じゃないか! ……って、変身した俺に言ってどうする!?
「ナイトさん、ダメっ! ダメ、です……!」
緑川さんはただ「ダメ」と繰り返す。今にも泣きそうな声だ。だけどとても心に響く。
魔法少女全員が俺のために声をかけ続けてくれている。俺が帰らないと彼女達を悲しませることになってしまう……!
魔法少女達の声が聞こえる度に、暗闇の中に光が広がっていく。もしもそこをくぐり抜けることができればきっと帰ることができる。
だけどそれはすぐに塞がって、再び闇に戻ってしまう。
(くそっ! こんなにもみんなが声をかけてくれているのにまだ足りないというのか!)
桜野さん、蒼月さん、陽山さん、緑川さん。俺は全員が好きだ。それは変な意味じゃなく人として。
だけどもし、もしも女の子として好きになるとしたら……?
そんなことを考えていると、一際大きな光が差し込み、人ひとりが通れるほどの大きさになった。
(今しかない!)
俺は持てる力の全てを使い、その光の中を駆け抜ける。気が付けば俺は地面に仰向けで横たわっていた。そしてゆっくりと体を起こす。
「あっ……! ナイトくん! よかった……本当によかったよ……!」
目の前には涙目の桜野さんが俺を見ている。
「よかった……」
蒼月さんはその一言だけを口に出し、俺を覗き込んでいる。
「おっ? 私達の水着を見たいってことかなー?」
陽山さんは冗談めかしてニカッと笑う。
「ナイトさん……っ!」
緑川さんの言葉は短いけど、とても温かな気持ちにさせてくれる。
「心配をかけてすまなかった」
「ううん、いいんだよ。ナイトくんにだけ危険なことをさせてごめんね」
「気にするな、ピンクの少女よ」
「ダメだなぁー、また色で呼んでるじゃん。よく見てよ、私達を」
陽山さんに言われて彼女達を見ると、魔法少女のコスチュームではなく全員が私服だった。
「いきなり変身が解除されてさぁー。ちょっとビックリしたよ。でもそれってあんたがハラグロを倒したってことだよね?」
「確かにハラグロは倒したが、魔法少女の力が解除されたのは俺がハラグロに解除させたからだ」
そうだ。だから俺の変身は解けていない。
「それってどういうこと?」
陽山さんに促され、俺はいきさつを説明した。
「それならもう怪異は出ないってことで合ってる?」
「そう考えてかまわない」
「これで私達は普通に戻ったってことだねー!」
「魔法を失ったのに嬉しそうだな」
「そりゃそうだよー。魔法がなくても生きていけるんだから。魔法なんてのはファンタジーの世界の中だけで十分なんだよ」
陽山さんの言葉に他の三人も同意している。
そして解散という流れになった。彼女達が魔法を使えなくなった今、結界を解除できるのは俺だけだ。
だから先に四人で別の場所に移動してもらってから解除することになった。
「ナイトくん、本当にありがとう! でももう会えないと思うと寂しいな」
桜野さんが元気な声で言ってくれた。
「ナイトさん、私達を守ってくれてありがとうございました」
緑川さんは深々と頭を下げた。
「んー、きっとまた会える気がするんだよねぇー」
陽山さんは相変わらずだ。
「気にするな。お前達と偶然目的が同じだっただけだ」
俺は正体を明かすかどうか悩んだ。その結果、ナイトは謎の存在のままにしておくことにした。
俺は彼女達からヒーロー扱いされたいわけじゃない。俺だと知ってしまえば、きっと彼女達は俺に対して負い目を感じてしまうだろう。そんなこと俺は望まない。
そして彼女達が俺から遠ざかっていく。だけど蒼月さんだけはまだ俺の近くに残っている。
「どうした? 早く行かないと追い付けなくなるぞ」
俺がそう言っても蒼月さんは追い付こうとせず、逆に俺に近付いて来た。
さらに俺の耳元に蒼月さんの艶っぽいくちびるが迫る。そしてボソッと一言。
「責任、とってくれるのよね……?」
(え? 怖っ……!)
いやいや、あれは桜野さんの闇堕ちを防ぐ協力をしてほしいって意味であって……。
「氷奈ー、行くよー!」
桜野さんに呼ばれて、蒼月さんはみんなのところに行ってしまった。
(いきなりすぎて説明するタイミング逃した……)
これはマズい。早くナイトは俺だと言わないと、どんどん酷いことになる……!
(真のラスボスがここにいたとは……)
これにて第一部が完結しました。
第二部につきましては、別サイトで公開している分もほとんど公開できてないためストックがありません。
なので、ストックが溜まってから一気に投稿しようと考えています。
それでもよければ、続きをお待ちいただければと思います。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!