第6話 なん…だと……?
俺が怪異と戦った日の夜。寝る前に転生してからのことを考えることにした。
まず初日。桜野さんと蒼月さんと出会った。そして三人で食堂にいる時に怪異が出現。
アニメの第一話に出てくる怪異で、視聴者に魔法少女の強さと目的を示すための噛ませ犬的な役割だった。そのため魔法少女の圧勝で終わる。
そしてその日の夜、俺の部屋に腹黒マスコットが現れて、俺も魔法が使えるようになった。
その翌日、つまり今日。なぜかまた昼休みに怪異が現れ、二人が駆けつけた。
ところが桜野さんが首を掴まれピンチになる。蒼月さんが助けようとしたけど、それよりも先に俺が怪異を倒し、さらに怪異の回収まで行った。
その時から蒼月さんの様子がおかしい、と。
(すげー濃い二日間だな……)
それにしても驚いたな。手を前に出してイメージするだけで、本当に魔法弾が出るなんて。もしかすると今なら、あの超有名マンガの超有名なあの必殺技だって出せるかもしれない。
さてと、これからどうするか考えてみよう。最優先すべきは絶対に桜野さんにあの宝石を使わせないことだ。
ということは、俺はこれからの全ての戦闘に参加することになる。そうすると、なるべくあの二人と一緒に行動した方がいいな。
え、マジか? 未だに女の子との接し方が分からん俺にそんなことができるのか?
いや、全ては魔法少女のため。俺はハッピーエンドが見たいんだ。俺だけが見れるアニメ一期の結末に変えてやろうじゃないか。
朝になり、教室に入った俺は『主人公席』に座った。
「一条くん、おはよう!」
「おはよう桜野さん」
まさか俺が毎朝かわいい女の子とあいさつするようになるなんて……! 前の世界じゃ考えられないことだ。
一応友達はいたけど、男同士ならお互い「おっす」の一言で終わる。そしてその後は昨日のアニメの感想を言い合うというルーティン。
でもそれがまた楽しいんだよなぁ。このアニメのことも話したっけ。そういえばあいつ、あの腹黒マスコットのことめちゃくちゃ嫌ってたな。
「蒼月さんはまだ来てないんだね」
「そうなの、この時間になっても氷奈が来てないのって初めてかも」
確かに蒼月さんっていろいろと厳しそうなイメージだな。
噂をすればなんとやら、蒼月さんが教室に入って来た。そして自分の席に鞄を置き、足早にこちらへ向かって来る。
「桃華、一条君、昨日はごめんなさい。せっかくの昼休みなのに、私ボーっとしてしまって……」
蒼月さんはそう言って頭を下げようとする。
「ええっ!? そんなの気にしなくていいよー! それに昨日だって聞いたし、氷奈が謝ることなんてないんだよ!」
そうだ、蒼月さんは悪くない。ていうか俺が当たり前のようにここにいることを、何気に受け入れてくれている?
「桜野さんの言うとおり蒼月さんは何も悪くないよ。俺なんて授業中ですらボーっとしてるんだから」
「二人ともありがとう。少し考え事があったのだけど、もう気にしないようにするわね」
俺の励ましは大スベリしたが、とにかく元気になったようで良かった。
昼休みになり、もはや当たり前のように三人で食堂に行き、いつもの席に座る。対面には可愛い女の子が二人。
「あ、一条くん、今日は親子丼なんだね!」
「まずは全メニューを片っ端から食べてみようと思ってね」
「そうね、それがいいんじゃないかしら」
おおっ、蒼月さんが反応してくれたぞ。なんだか昼休みが楽しい。これは卒業したくないほどに高校生活が楽しくなる予感。
「そうだ、ねえ氷奈。次のお休みでいいんだよね?」
「ええ、大丈夫よ」
何か約束をしてるのかな? 女の子同士ってどこに行って遊んでるんだろう。
「そうだ、もしよかったら一条くんにも来てもらう?」
「確かに男手があったほうがいいかもしれないわね」
二人の視線が俺に向けられている。
「あのね、次のお休みに氷奈と一緒に買い物に行く予定なんだけど、一条くんもどうかな?」
「え? 俺も行っていいの?」
「無理にとは言わないわ。私達にも荷物を持ってもらおうという思惑があるしね」
正直な蒼月さん。それは全然いいんだ。いいんだけど……。
(女の子と出かけることすら初めてだというのに、二人同時に、だと……?)