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第56話 ループ

 変身した状態の俺を『一条君』と呼んだ陽山(ひやま)さん。ああそうか、きっと呼び間違えたんだ!

 まさか正体バレてないと思ってたのは俺だけってことはないよな? それはもはや悲劇だ。


「すまないが、その『一条君』というのは誰のことだ? 誰かと間違えていないか?」


「えぇー、違うの? 私はてっきりそうだと思ってたんだけどなー」


 さて、俺には二つの選択肢がある。認めるか、認めないかだ。


 仮に認めた場合、素を出せるので楽ではある。だけど他の三人がいる前ではナイトを演じることになる。

 陽山さんだけは俺だと知ってるわけだから、後でめちゃくちゃからかわれそうな気がするな。それに恥ずかしくてナイトを演じきる自信が無い。


 それと実際に変身してるところを見られたわけじゃないから、まだワンチャン隠し通せる可能性がある。


(よし、とぼけよう)


「お前が誰のことを言ってるか分からないが、その人物はお前の友達か何かなのか?」


「うん、そうだよ。知り合ったのは最近だけど、なんかほっとけなくてねー。私達に対してどこか遠慮してるっていうか、気をつかい過ぎっていうか。もっと気楽に話してくれればいいんだけどね。……って、あんたに言ってもしょうがないかぁ。あと私の名前は小夏だから」


「その通りだ。俺に言っても仕方ないだろう。お前が次にその『一条君』という人物に会った時に、直接言ってやるといい。きっと応えてくれるんじゃないか?」


「そっか、うん、そうだよね! やっぱりさ、私達といる時はめいっぱい楽しんでほしいじゃん? そして大人になった時にさ、私達と過ごした時間が素敵な思い出になってくれてたらいいなって思うんだよ。もちろん大人になっても一緒に遊べたらいいと思ってるけどね」


 それは陽山さんが日頃から俺に対して思ってくれていることなんだろう。

 でも今の俺は『ナイト』だ。もしかしたら陽山さんは俺だと分かったうえで、あえて『ナイト』に言っているということにして、俺に本音を聞かせてくれているのかもしれない。


(そうか、俺がいつも遠慮がちだから、逆に気をつかわせてしまっていたんだな……)


「あと私の名前は小夏だから」


 どうしても下の名前で呼ばなきゃダメですかね……?



 そしてようやく三人のもとにたどり着いた。


「小夏さん! それにナイト君も! 無事でよかった!」


 三人を代表するかのように、桜野さんが無事を喜んでくれた。

 ドラゴン怪異の件が頭をよぎるけど、一度打ち破ったことをハラグロがしてくるとは思えない。


 それに仲間を想う魔法少女達の笑顔がニセモノだなんて、考えたくない。


「小夏さん、ここに来るまでにこれと同じようなドアがありませんでしたか?」


「うん、あったよ。もしかして桜野ちゃん達も?」


「そうなんです。気が付いたら私達三人しかいなくって、二人を探していたらハラグロが現れたんです」


 桜野さんの話によると、桜野さん達もハラグロからドアの説明を受けたようだ。だけど俺と陽山さんがいないということで、誰一人としてドアの外に出ようとはしなかったそうだ。


「そして私達に会ったってわけか。私達を探そうとしてくれてありがとね、桜野ちゃん、蒼月(そうげつ)ちゃん、若葉」


「そんな、私達の方こそありがとうですよ!」


桃華(とうか)の言う通りです。お二人では不安だったでしょう」


「二人が無事で本当によかったです……!」


 感動の再会といった場面だけど、そんな雰囲気を一瞬で消し去るのがハラグロである。

 まるで全員がそろったのを見計らったかのように、スーッと姿を現した。


「やあ、おめでとう。全員そろったね」


「お前はいったい何がしたいんだ?」


「絆っていうんだっけ? それを見せてもらおうと思ってね。十分に見させてもらったよ。それじゃ、そのドアから帰ってね」


 俺は念のためドアの向こうを確認した。確かに帰ることができるようだ。


「あ、一つ大事なことがあるんだ」


 ハラグロはそう言うと、何やら説明を始めた。


「ドアは必ず最後まできちんと閉めてね。そうしないと元の場所に帰ることはできないよ」


 俺はドアノブを握り、手前に引いた。すると当然ながらドアが開いたため、全員で外に出て少し進んだ。

 ところが確かに元の場所に戻れたはずの俺達はいつの間にか、まるでゲームの無限ループのように、ドアを出る前と同じ場所に立っていた。


「ね、僕の言った通りだろう?」


「ドアを閉めればいいんだな」


 再び全員でドアの外に出る。そしてドアを閉めようとして違和感を覚えた。無いのだ、ドアノブが。


 正確にはある。あるが、今ハラグロがいる不気味な場所側にしか無い。そしてそちら側から開ける場合はドアを手前に引く。

 つまり全員が元の場所側に出てしまえば、ドアをきちんと閉めることができないようになっていた。


(なるほど、全員で協力して知恵を絞れということだな……?)

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