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第54話 NGR(寝返る)

 俺達五人の前に姿を現したハラグロ。その距離は俺達から5メートルほど離れている。まさに最終決戦といったところか。


 一応は俺がリーダーということなので、俺を中心として魔法少女達が横並びになっている。

 左側には桜野さんと蒼月(そうげつ)さん。右側には陽山(ひやま)さんと緑川さん。で、俺の両隣は蒼月さんと陽山さんだ。


 特に決めたわけじゃないのに、定位置のようなものができあがっていた。今ならなんとなく戦隊ヒーローの気持ちが分かる気がする。


「ねえナイト君、これはどういうことなの?」


 桜野さんが俺にそう問いかける。もうここまで来ると、俺と魔法少女達が協力してることを隠す意味は無いだろう。

 もともとは魔法少女達がハラグロに何かされないために、ハラグロにそう思い込ませていたんだから。


「ハラグロはだな、俺やお前が回収した負の感情のエネルギーを使って、この世界を破壊しようとしていたんだ」


「えっ、嘘……。まさかそんなこと……。この宝石にそんな意味があったの?」


「ああ。だから絶対にハラグロに渡すな」


「ねぇそれってホントなの? だったら私達は自分が住む世界を破壊するエネルギーを溜めるために、怪異と戦ってたっていうの? そしてその役目を桜野ちゃんだけに背負わせて」


「ああ、そうなるな。そしてその怪異もあいつが出現させていた」


「何それ……。いくらなんでも酷すぎ」


「私も何がきっかけで怪異が出ていたのか不思議だったのだけど、そんな理由があったのね。誰よりも桃華(とうか)が一番危険な目に遭ってきたのよ……!」


「私も、許せません……」


 魔法少女達は全員が怒りを覚えているようだ。当然だろう。

 それよりも俺は、こんな話を彼女達があっさり信じてくれたことに驚いている。


「俺の話を信じてくれるんだな」


「そんなの当たり前じゃん。今までのあんたを見てれば分かるよ。それによく考えてみれば一番怪しいのはハラグロだし」


「そうだよ、小夏さんの言う通りだよ。今思えば私達ってずっとハラグロの手のひらで踊らされていたんだね……」


 陽山さんと桜野さんの言葉に、他の二人も同意の言葉を口に出してくれた。


「それに私はさ、あんたが——」


 陽山さんが俺に何か言いかけたけど、いつもタイミングが悪いのがハラグロという存在。

 ハラグロは陽山さんの言葉を遮って、淡々と話してくる。


「君達はずいぶんと距離が近いんだね」


「お前にも仲がいい存在くらいいるだろう?」


 転生前は一人しか友達がいなかった俺が、まさかこんなセリフを言う日が来るとは。


「仲がいい? 他の個体と馴れ合うってことかな? それって必要なことなのかい?」


「ああ、必要だ。人はひとりじゃ生きていけないからな」


「なるほど、一人ひとりが未熟だから、そうしないと死んでしまうんだね」


 ハラグロは俺のセリフを言葉通りに受け止めたようだ。生活するという意味においては一人でも生きられるのかもしれない。だけどそれはそんな単純な話じゃないんだ。


「それで君達は馴れ合ってどうするつもりなんだい?」


「決まっているだろう? お前の野望を阻止して、彼女達を魔法少女の使命から解放するんだ」


 俺がハラグロにそう言うと、桜野さんが一歩前に出た。


「私達は君に利用されていただけなの? お願い、もうこんなことやめて……!」


「君達は僕の味方だと思っていたんだけど、寝返るというのかい?」


「確かに君からすればそうなるのかもしれない。だけど私達はね、この街を守りたいから今まで戦ってきたの」


「そうね、私だって桃華と同じよ」


「私もあんたのために戦ってるだなんて一度も思ったことないよ」


「そうです……! 私の大好きな人達を傷付けないでください!」


「だそうだが、どうする? 五対一でお前に勝ち目はあるのか?」


 確かハラグロは戦闘が得意じゃないと言っていた。なので普通に戦えば勝てる可能性は大きいかもしれない。


 だけどいいのか? もしハラグロを倒したとして、それで自動的に魔法少女達が解放されるとは限らない。そうなると解放が永久にできなくなるかもしれない。


 それどころか万が一、ハラグロから力を与えられた魔法少女達や俺も一緒に消えてしまったら……? 考えるほどに手を出しづらくなってしまう。


「確かに僕は不利だね。だけど君達の魔法はもともと僕が与えたものだ。だからそれで攻撃されても僕には傷一つ付けることはできないよ」


 ハラグロの余裕を見る限り、きっと本当なんだろう。俺は試しに殺傷能力がほとんど無い魔法弾をハラグロめがけて放った。


 それがハラグロに命中すると、魔法弾は音もなくスッと消え去った。そしてそこには全く動揺していないハラグロの姿がある。


「ほらね、本当だっただろう。それになぜ僕がわざわざここで大して強くもない怪異を呼び出したと思う?」


 その言葉を聞いた俺はとっさに「全員手を繋げ!」と叫んだ。すると俺の両手は温もりに包まれた。


 そして目の前が真っ暗になり、気が付けば見渡す限りの闇が広がっていた。


 ハラグロの攻撃方法は『精神攻撃』に違いない。だとすると、ここは俺が闇堕ち体験をした時と似たような場所になるのか……?


 そう思うと同時に、右手に温もりを感じた。陽山さんが俺の手を握っている。

 だけど他の三人はいない。それでも全員が孤立したわけじゃなかった。

 ごく短時間でとっさに思いついた方法だったけど、あながち間違いじゃなかったみたいだ。


「えっ、ここはどこ……? 他のみんなはいないの?」


 さすがの陽山さんも不安を隠しきれないようだ。


「ここはハラグロが用意した場所だろうな。おそらくハラグロは俺達の精神を壊そうとしている」


「精神……? それってどういうこと?」


「負の感情のエネルギーを回収し終わったから、もう俺達に用はないということだろう」


「えっ……」


「正確にはまだ終わっていない。宝石はまだ俺達が持っているのだからな」


「そ、そうだよね。うん、そうだ! まだ私達は負けてない!」


 陽山さんは持ち前の前向きさで気持ちを切り替えたようだ。


 そして念のため俺達は手を繋いで先へ進む。とはいえ見渡す限りの闇で方向すら見失いそうになる。


 それでも数分後にはわずかな光が見えたので、そこへ近づくとハラグロが現れた。


「へえ、面白い組み合わせだね」

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