第5話 青の女の子は何を思う
怪異を倒した俺は変身を解き、急いで食堂へと戻り席に着く。
おかしいな? 今は昼休みのはずなのに、全然休めていないぞ?
それから少しして結界が解除され、桜野さんと蒼月さんが帰って来た。
「待たせちゃってごめんね、一条くん」
よかった、桜野さんは気絶していたけど意識を取り戻したみたいだ。
「食事中に席を立ってしまってごめんなさい」
蒼月さんも申し訳なさそうにしている。一見すると冷たい印象があるけど、こういうことがきちんとできる子は好感がもてる。
そして改めて食事再開となった。えーっと、何を話していたんだっけ? ……そうだ、蒼月さんの妹のことを聞いてたところだった。確か小学五年生と言ってたっけ。
実はその辺りのこともアニメで描かれていたから俺はすでに知っている。
だからこの会話の目的は、『俺が蒼月さんの妹のことを知っていても不自然にならないようにするため』だ。
もしうっかりそれをしないで蒼月さんの妹について俺が話してしまうと、桜野さんはともかく、蒼月さんから間違いなく避けられてしまうだろう。だって蒼月さんちょっと怖いから。
「桜野さんは蒼月さんの妹さんと会ったことがあるの?」
「うん、あるよ! 私はよく氷奈の家に遊びに行くから、三人で遊ぶことも多いんだ! ね、氷奈」
桜野さんが蒼月さんの方を見て返事を待つ。でも返事はない。
「氷奈?」
蒼月さんらしくない反応だったのか、さすがの桜野さんも少し不安そうに蒼月さんを見つめている。
「えっ? あっ、そ、そうね。遊びに来ると桃華が一番はしゃいでいるわね」
「だって楽しいんだもん」
「私にとってはもう一人妹ができたみたいで大変なのよ」
「えぇー、そんなこと思ってたのー? 氷奈だって楽しそうにしてるのにー!」
冗談だということをアピールするため、大げさに頬をふくらませる桜野さん。
ところが蒼月さんはまたしても無言になってしまった。
「氷奈、もしかして怒った? ごめんねっ! 冗談のつもりだったの」
慌てた様子で謝る桜野さん。さすがにここまでくると俺だって蒼月さんの様子が変だと分かる。
「あっ……! ごめんなさい。全然怒ってないからね。桃華が楽しそうにしているところを見るの、好きよ」
「えへへっ、嬉しいな」
その後の蒼月さんは特におかしな素ぶりは無く、怪異と戦った後とはとても思えない楽しい昼休みを過ごした。
SIDE 蒼月 氷奈
さっきの黒いローブを着た人はなんだったの……? 私達を助けてくれたと考えていいの?
それに「その子が持っている白い宝石はもう二度と使ってはいけない」って言ってた。それって桃華が持っている宝石のことよね?
桃華しか持っていない宝石。倒した怪異を吸い込むための物。
どうしてそのことを知っているの? 二度と使ってはいけないとはどういう意味?
私の頭の中ではそんな疑問が飛び交っている。
「氷奈?」
かけがえのない友達が不安そうな声で私の名前を呼んだ。桃華を不安にさせてはダメ、しっかりしないと。
「えっ? あっ、そ、そうね。遊びに来ると桃華が一番はしゃいでいるわね」
私はまるで不安な素ぶりを隠すかのように、少し意地悪な言い方をしてしまった。
そうよ、私がいくら考えても答えなんて出ないんだから。
でも、もしも、もしもまた会えたなら聞いてみよう。「あなたは何を知ってるの? どうして私達を助けてくれるの?」と。
私がそんなことを考えていると、再び桃華の声が聞こえてきた。
「氷奈、もしかして怒った? ごめんねっ! 冗談のつもりだったの」
えっ、怒る? 私が桃華に? そんなことあるわけないのに。……そうか、私はまた違うことを考えていたのね。
せっかくの昼休みなのに、私がボーっとしているせいで二人に心配をかけてしまったようね。一条君にも申し訳ないことをしてしまったかな。
それでも、もう一度だけあの人に会ってみたいと思ってしまうのは、私のわがままなのかな?