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第48話 推測

 辺りは真っ暗。夜かと思ったが、おおよそ景色と呼べるようなものは何も無く、魔法少女達の姿も見えない。これは明らかに何かがおかしい。


「ようこそ、一条 早真(そうま)君」


 そして目の前には全身が真っ黒で猫のようでありながらも、ウサギのように長い耳、二本の尻尾、怪しく光る真っ赤な目の生物、ハラグロが居た。もうこの時点でロクなことにはならないと分かる。


「ハラグロ……」


 驚きもあったのか、俺はついそう口走っていた。


「はらぐろ? 確か前にも僕を見てそんなことを言っていたね。君の言うとおり僕のお腹は真っ黒だけど、それがどうかしたかい?」


 そう、こいつは『腹黒』という言葉の意味を知らない。だから言葉だけならこいつは自分で腹黒だと認めてんだよなあ。


「いや、何でもない。それよりも俺に何か用事か? それにここはどこなんだ? どう考えても俺の部屋じゃないよな」


「その質問に答える前に、君に言いたいことがあるんだ。あのドラゴン型怪異の回収おめでとう。やっぱり君には魔法使いとしてのとてつもない素質があるようだ。だからここにご招待したんだよ」


「いつものことだが質問の答えになってないのは相変わらずだな」


 とはいえある程度の推測はできる。さっきこいつは「ようこそ」と言っていた。それに「ご招待」とも。ということは、ここはハラグロが用意した場所なんじゃないか?


「俺はお前が作り出した場所に勝手に移動させられたんだな?」


「正解だよ。君に面白いものを見せてあげようと思ってね」


「面白いものだって?」


「そうさ。君は怪異が何から生まれるか知っているよね」


「人の負の感情だろ? 知ってるも何も、お前から聞いたんだぞ」


「そうだったね。それで君は今、ピンクの魔法少女が持っているのと同じような宝石を持っているよね?」


「確かにそうだけど、それがどうかしたか?」


「それをちょっと僕に渡してくれないかい?」


 ハラグロからそんな要求をされた。これをハラグロに渡すだなんて、危険すぎる。

 でもここはハラグロが用意した場所で、いわばアウェーといえる。もし断ればどうなるか分からない。

 下手するとここから出られない可能性すらある。なので拒否するのも避けたい。


「これは俺にとっても大切なものだから、見せるだけじゃダメか?」


「それでも構わないよ」


 俺は右手を上に向けて集中し、あの宝石を具現化した。


「なるほど、たっぷりと溜まっているね。ちょっと待っててくれるかな」


 ハラグロがそう言うと、宝石から黒いモヤのようなものが出て、まるで映画のスクリーンのように映像が映し出された。


 そこには俺の知らない様々な人が登場して、本当に映画のように日常の一場面が次々と切り替わる。

 場面ごとに登場する人々が変わり、まるでいろんな人の人生を少しずつ覗き見しているような感覚だ。


 ところが見ているうちに違和感を覚えた。それはどの場面も決して気分のいいものではなかったから。


 登場人物が子供の場合は学校でバカにされたり、見た目をからかわれたり。大人の場合は暴力を振るわれたり、上司からパワハラを受けたり、誰かを恨むきっかけになった出来事だったり。


 これでも比較的には軽い方で、中には思わず目を逸らしたくなるような、言葉にすることですらツラい場面も多く含まれていた。


 実は俺も今まで学校では、いい扱いをされてないことがあった。いじめとまではいかないけど、物静かってだけで小馬鹿にされたりした。


 変な話、そんな経験から悪意にある程度の耐性がある俺ですら、これらの映像を見るのは気分が悪くなる。


「どうだい、醜いだろう? 感情なんてものがあるから、こんなことが起きるんだよ」


 それからもこの光景は続いた。俺としてはまだなんとか理性を保っていられる。


(そうか……。だから桜野さんは……!)


 もしも桜野さんが、こんな映像を延々と見せられたらどうなるだろうか?


 ここからは俺の想像になるけど、ああいう性格の桜野さんだ、きっと今まで他人の悪意に触れることなんて、ほとんど無かったんじゃないだろうか。相当なショックを受けたのは想像に(かた)くない。


 そしてハラグロに「もうやめて」と言う。でもハラグロはやめない。やがて桜野さんの心に影響が出始める。


 俺は今、アニメでは描かれていない桜野さんの闇堕ちの過程を、代わりに体験しているのかもしれない。

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