第47話 水着ハーレムの終わり
ドラゴン怪異の攻撃を防御障壁で防ぎ続けた俺は、その反動で倒れそうになってしまった。
だけどその時、桜野さんと蒼月さんが、俺の両肩を支えてくれた。
「少しフラついただけだから問題ない。二人とも、礼を言う」
「あれ? さっきは『ありがとう』って言ってたのになぁー?」
俺の右肩を支えたままの桜野さんがそう言いながら、ワザとらしく俺の顔を覗き込んできた。
「気のせいだ」
「フフッ、そっか気のせいかぁ!」
「さあ、早く陽山さんと緑川さんのところへ行きましょうか」
蒼月さんにうながされ、俺は自分の足で地面を踏みしめ、そして二人の前へとたどり着いた。
「三人ともお疲れさま、カッコよかったよ! 桜野ちゃんの魔法弾のおかげで蒼月ちゃんのパンチがよく効いてたし、それはナイト君が頑張って怪異の注意を引きつけていたからこそだね!」
回復した陽山さんが少し興奮気味に、労いの言葉をかけてくれた。
「やっぱり桃華さんと氷奈さんはすごいですっ! それにナイトさんも。私にはあんなすごい防御障壁、作れません」
緑川さんもいつもより大きな声を出して、興奮しているように見える。やっぱりこういう緑川さんもいい。
「えへへっ、二人ともありがとうー!」
褒められた桜野さんが両手を広げて、ガバッと陽山さんと緑川さんを同時にハグした。
そして桜野さんが蒼月さんも抱き寄せて、可愛い魔法少女四人が抱き合うという、てぇてぇ光景が完成した。
それを見ていると、まるで心が洗われるかのようだ。回収した負の感情、これで消えないかな?
そしてやはりというか何というか、蒼月さんだけ俺をチラチラと見てくる。……いやいや、混ざらないから。
そう決意した俺だけど、気が付けば何歩か魔法少女達に近づいていた。体は正直とはこのことかぁ……。
てぇてぇ光景が終わりを迎えると、陽山さんが俺に向かって口を開く。
「あのさナイト君、あんなデカい怪異を吸収して大丈夫? 真っ黒だったし、いかにも体に悪そうだったよね。ほら、焼き肉とかでも真っ黒にコゲた肉を食べると体に悪いっていうじゃん」
怪異と焼き肉を一緒にするとか陽山さんすげーなと思いつつ、確かに正直なところ心配がないわけじゃない。
アニメだともうここで桜野さんが闇堕ちしていた。話数でいうと第十一話。正確には第十話のラスト、第十一話への『引き』として。
「大丈夫だ。今のところ体に異変はない」
「そっか、ならよかった!」
もし俺も闇堕ちするなら、このタイミングだろう。桜野さんが闇堕ちした時は他の三人が必死で止めようとしていた。
果たしてそれが俺になった場合、魔法少女達は止めてくれるのだろうか……?
「そういうことなら、みんな帰ろっか!」
陽山さんが全員に向かって提案した。だけど俺は一緒に行くわけにいかない。
「俺はもとに居た場所へ帰るからお前達とは行けない」
「そうなの? ナイトくんも一緒に行こうよ」
桜野さんが誘ってくれてるけど、そういうわけにもいかない。俺だと完全にバレるまでは、できるだけ隠し通すつもりだ。
「気持ちは嬉しいが、俺は——」
そう言いかけたところで、全身の力が一気に抜けたような感覚に襲われ、その場に片ひざを立ててしゃがんでしまった。
(戦いの影響がまだ残っている……?)
「ちょっとナイト君、大丈夫!? やっぱり魔法を使いすぎたんじゃないの?」
「ナイトくん、私と氷奈を守るために頑張ってくれたもんね」
「それなら尚更早く帰った方がいいんじゃないかしら」
「私もそう思います」
四人全員が心配して声をかけてくれている。それに応えるためにもしっかりしなくては。
ところが俺のそんな思いとは裏腹に、みんなの声が次第に遠ざかっていく。
そして気がつくと辺りは真っ暗で、夜になってしまったのかと思った。
でもそうじゃなかった。近くにあるのは二つの赤い光。俺はその光に見覚えがある。
「ようこそ、一条 早真君」
赤い光はハラグロの目。それはハラグロが俺の前に現れたことを意味していた。