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第46話 こんな姿なのに

 ドラゴン怪異の首は残り三本。それぞれが炎・氷・雷のブレスを吐く。それらはゲームでもおなじみの属性なので、まだ対策することができると考えたんだ。


 逆に他の五本のブレスは得体の知れない見た目をしており、どんなものか分からなかったので優先的に狙っていった。

 そのダメージや効果を確かめるために、まさかワザとくらうわけにもいかない。


「ここで一旦距離をとるぞ!」


「うん、分かった!」


「分かったわ」


 桜野さんと蒼月(そうげつ)さんに声をかけて、俺達は陽山(ひやま)さんと緑川さんがいる地点に戻った。


 陽山さんは怪異の注意を引くため、ずっと遠距離魔法を放っていた。なので魔法少女達の中で一番消耗が激しいはずだ。


 実際に俺も魔法が使えるようになって分かったことだけど、魔法を使うと疲れる。

 例えるならずっとその場にいたのに、まるで全力ダッシュした後のような疲労感が急にやってくる感じ。


 使った魔力の量に比例するんだろうけど、少しの息切れから酸素スプレーが必要なほどになるまで、その程度は様々。


 俺も魔法が使えるようになってすぐの頃、自分の魔力量を把握するため部屋で小さな魔法を使い続けて実験したことがあり、その時に魔力切れのヤバさを体感した。

 アニメとかで戦闘が終わった途端にフッと倒れ込む描写があったりするけど、「確かにああなるよなぁ」と不思議な納得感があったんだ。


「全員体に異変はないか? 特に黄色の少女」


「大……丈夫! 息切れはしてる、けど、このくらいならいつものこと、だから。それよりも、私の名前は『小夏』って言ったじゃん……!」


 陽山さんは肩を上下させながらも、名前で呼んでくれと言わんばかり。そこを気にする余裕があるのなら大丈夫そうだ。

 それにしても下の名前で呼ぶことに、俺の方がためらってしまう。本当にいいのかな。……ん? そういえば蒼月さんも『陽山さん』って呼んでるな。でも今考えることじゃないか。


「分かった、小夏。それよりもお前達二人はここにいるんだ。あとは俺達に任せるんだ」


「そう、それでっ……いいん、だよ。やっと、名前で、ハァ、ハァ……!」


 どこか艶っぽい唇からもれる陽山さんの吐息がかかりそうなほどで、陽山さんの息はまだ整いそうにない。


「あの……、私はまだ戦えます!」


 緑川さんが力強い声と共に小さく右手をあげて言ってくれた。


「気持ちはありがたいが、ここにいて小夏を守ってやってくれないか。お前なら安心して任せられる」


「分かりました……! 小夏さんは私が守ります。だから、その、頑張ってください……!」


「ああ、任せろ」


 防御障壁は広範囲に展開すれば効果が薄くなり、効果が高い防御障壁は有効範囲が狭くなる。


 さっきは俺や陽山さんの攻撃に怪異が気を取られていただけであって、ずっと緑川さんに広範囲の防御障壁を展開してもらうと、緑川さんに危険が及ぶ可能性がある。

 だから今は本当に必要な時だけ使ってもらうことにした。

 

「怪異の首が動いたよ! ブレスがくる!」


「あれは炎のブレスのようね!」


 見張りを任せておいた桜野さんと蒼月さんの大きな声を皮切りに、俺は防御障壁を展開してそれを防いだ。


「今更だが、あいつを倒すにはお前達の協力が必要だ。安全にはできる限り配慮するが、戦いである以上は危険を伴う。それでも付いてきてくれるか?」


「もちろんだよ! 私はここで見てるだけのほうが嫌かな」


「私も桃華(とうか)と同じよ」


「二人とも、感謝する」


 俺は桜野さんと蒼月さんと一緒に怪異に近づいた。すると怪異の残った三本の首がいっせいに俺達に照準を定めているように見える。


「二人は怪異の死角に入って攻撃の隙を見計らってくれ。それなら比較的安全なはずだ」


 八本ならともかく、三本の首は怪異の端に位置しているため、その真後ろが死角となる。

 怪異とはいえ首が180度も回らないのはさっき確認済みだ。まあ何本か逆向きに生えてた首には少し驚いたけど、それは全て落としてある。


 三人で死角に入ればいいかとも思ったけど、怪異がみすみす背後をとらせるとは思えないし、何より魔法少女達を危険にさらしてしまう。


 俺は怪異の前に立ち、攻撃のモーションに入った。それを見た三本の首がいっせいに少し後ろに動く。


 炎・氷・雷のブレスが混ざり合い、綺麗な三色となり高速で俺に迫り来る!

 俺はそれを横に大きくステップしてかわすと、それを見た怪異が今度は別々にブレスを吐いてきた。


 俺はそれもかわす。でも次第に違和感を抱いた。どうやら俺が着地するだろう地点に時間差でブレスを吐いているようだ。

 ならばとジャンプすると、やはり先読みしてブレスを吐いてきて、さらに地面を這うかのごとく横方向になぎ払うようにもしてくる。


(そろそろ厳しいか……!)


 しばらくそれを続けていたが次第に間に合わなくなると悟った俺は、直撃するよりはマシだとよける事をやめて両腕を突き出し、前方特化の防御障壁を展開した。これは範囲が前方のみの代わりに最大の防御効果を発揮する。


 すると三色のブレスが飛んで来て防御障壁に当たると、まるでそこで途切れたかのようにブレスが消えた。


 それと同時に俺の体をとてつもない疲労感が襲う。ブレスが強力で魔力消費が激しいのだろう。


(弱っていてこの威力なのか! 防御ってこんなにも大変なんだな……!)


 俺は緑川さんに敬意を払いつつ、ひたすら攻撃を受け止め続ける。


(二人とも、頼んだよ……!)


 あとは桜野さんと蒼月さんを信じて耐える、耐え続ける。


 なぜなら俺には見えているから。二人が連携して着実に攻撃をしている光景が。

 それはまるで防御のことは考えていないような、一切の躊躇(ちゅうちょ)も感じさせない、美しい連携。


 そんな二人を見て、こんな怪しい姿の俺でも信じてくれているのだと、目頭が熱くなった。


 怪異は時折、桜野さん達を攻撃するため体勢を変えようとするが、その度に俺が魔法弾を連射して、再び攻撃のターゲットとなるよう誘導する。そしてまた防御障壁を展開。


 ひたすらその繰り返し。あとは俺の体力と魔力がどのくらいもつか。


(ここで耐えないと全てが終わる……!)


 とてつもない疲労感に、腕を上げることすらやめたくなってしまう。

 俺はもうこの後は何日も目を覚まさなくていいから、どうか今だけは耐えさせてくれと願った。


 そしてもうどのくらいこうしているのか分からないくらいの時が過ぎると、攻撃の勢いが弱まってきていることを感じた。


 やがてそれはピタリと止まり、俺は二人が怪異を倒したことを知る。

 そして怪異が光り始めたので、俺はすかさず回収をした。


「ナイト君っ……!」


 桜野さんと蒼月さんが駆け寄り、声をかけてくれる。


「二人とも無事か?」


「私達なら大丈夫!」


「ええ、傷ひとつ無いわ」


「そうか、よかった」


 俺はそう言って陽山さん達のもとへ帰ろうとすると、急激に地面が近づく感覚に陥った。


「あっ……! 大丈夫!?」


 その直後、俺の両肩はとても温かな何かに包まれた。俺がまるで死闘の後みたいにフッと倒れかけたところを、桜野さんと蒼月さんが支えてくれていたんだ。


(さあ、これで桜野さんの闇堕ちを防いだぞ……!)

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