第45話 縛り上げる……?
「あっ! やっと見つけた……! 桜野ちゃんに蒼月ちゃんにナイト君。みんないるね!」
「小夏さん、若葉ちゃん! 無事でよかった!」
桜野さんが二人に駆け寄ろうとすると、陽山さんがそれを制止した。
「待って、桜野ちゃん達は本物なのかな?」
陽山さんが言ったことはごく自然なことだ。二人が一緒にいるということは、すでに幻と戦ったのだろう。疑心暗鬼になるのは無理もない。
俺がここで桜野さんと会った時、桜野さんは「一人で不安だったんだ」ではなく、「みんなが心配だった」と言った。それは自分優先で考えているのなら出てこないセリフだ。
さっきの蒼月さんのフリをしていた怪異の、桜野さんに対する『あなた』呼びのように、怪異にはそういった細やかな気配りができない。気が付かないと言ったほうが正しいだろうか。
その怪異自体の戦闘能力は低い。怪異の目的は俺達を疑心暗鬼にさせることだから、もしニセモノなら何かしら暴言のようなことを言ってくるだろう。
俺が桜野さんを本物だと思った理由は主にそんなところだ。それにもし怪異が実力行使に出るのなら、俺が油断したところをもうすでに襲われていてもおかしくない。
「小夏さん、私達は本物です! でもどうしよう、証明する方法が分からないよ」
「それは私と若葉も同じだよ。困ったな、どうしようか。私と若葉が変な動きをできないように縛り上げてみる?」
「えぇっ!? 小夏さんと若葉ちゃんにそんなことできませんよ!」
「そんなこと気にしなくていいよー!」
「私も……気にしません」
「やっぱりダメ……。それじゃまるで私達が二人を信じていないみたいになっちゃうよ」
「むしろ私達を身動きできないようにしてもらおうかしら。陽山さん、それならどうでしょうか?」
「蒼月ちゃん!? 私だってみんなにそんなことしたくないよ!」
四人全員が同じことを考えているようだ。どんな時でも仲間を信じるだとか、それは綺麗事なのかもしれない。
だけどもし仮にお互いを身動きできないようにしたとして、そんな小さなほころびが、やがて大きな亀裂になることだってあるんだ。
「何もしなくていいんじゃないか? 何もしないことこそ、お互いを信じている証だろう。それなら俺はどうなんだ? という話になることも分かっている。だから俺だけを監視すればいい」
俺がそう言うと、魔法少女達は「それもしない」という意味の言葉をくれた。それを聞いた俺は、せめて先頭になって進むということを申し出た。
「俺が少しでも怪しい動きをすれば、いつでも攻撃してもらって構わない」
「そっか、分かった。あんたがそう言うのなら、そうさせてもらおうか」
きっと陽山さんも俺のことを考えてくれているからこそ、俺の提案を受け入れたのだろう。
薄暗い通路を五人で進んで行くと、やがて光が見えてきた。そこを抜けると視界が白くなり、俺達は砂浜に立っていた。
そして凍ったままの海と、その上には俺達を狙っている闇のように黒いヤマタノオロチのようなドラゴン怪異の姿。元の場所に帰って来たんだ。
「攻撃再開といくか」
俺達は怪異へ近づいた。その距離は10メートルほど。
「黄色の少女は遠距離魔法で怪異全体を攻撃して怪異全体を弱らせる。ピンクの少女は怪異の首を集中攻撃してダメージを蓄積させる。そして青の少女はそこをピンポイントで攻撃して首を破壊する。緑の少女は安全な位置から広範囲に防御障壁を展開しつつ、黄色の少女と一緒に全体を見ていてくれ」
「分かった。それであんたはどうするの?」
「俺も攻撃に参加するが、それと同じくらい大事な役目を引き受ける」
「大事な役目って何?」
「囮だ」
俺はそう言うと怪異に近づいた。八つの頭からそれぞれ別の種類のブレスが襲いかかってくる。炎や氷、雷。ゲームによく出てくるような属性のものや、毒々しい色をした得体の知れないものまで、いずれにしてもくらってしまえば、どうなってしまうか分からない。
陽山さんが怪異の頭上から魔法剣の雨を降らせているおかげで、怪異の攻撃は俺と上空に分散している。
その隙に桜野さんが、怪異の首の付け根にピンク色の魔法弾を連発した。
やがてダメージが蓄積したのか、そこだけが発光し始めると、蒼月さんが青いオーラをまとったパンチで衝撃を加える。
すると怪異の首が見事に離れて氷の地面に落ちた。
「よし、あと七本この調子でいくぞ!」
もともと弱らせていた効果もあるだろう。アニメでは魔法少女達の動揺をエネルギーにして、怪異がパワーアップしてしまっていた。だから苦戦を強いられたんだ。
俺達はその後も順調に怪異の首を落としていった。ドラゴン怪異との戦いはまだ終わっていないけど、俺には少しの心配もあった。
アニメではこの怪異を回収した後、桜野さんが闇堕ちしてしまった。
ということは、この怪異を俺が回収してからの展開はアニメには無い。それは俺にとっても未知の領域になることを意味している。