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第43話 近いけど遠い

桃華(とうか)ごめんなさい。あなたとは一緒に行けないの……」


氷奈(ひな)……。どうしたの? 何かあったの?」


 ようやく再会した蒼月(そうげつ)さんが俺達との同行を、いや、桜野さんとの同行を断った。


「別に何も無いわ。ただ私、ずっと考えていたの。私達は今、あなたを救うという目的で戦っているわよね」


「うん、そうだね。みんなには本当に感謝してるよ」


「そういうことに決まった理由は何だったか覚えてる?」


「もちろんだよ。ここにいるナイト君が教えてくれたからだよね」


「そうね。だけどまだあるわよね?」


「えっと……、確か小夏さんがそうしようって言って、それから氷奈と若葉ちゃんも賛成したから、だったかな」


「そう。だから私はあなたに聞きたい。そこにあなたの意思はあるの?」


「私の、意思……?」


「そうよ。だってそれって言い換えれば『みんながそう言ってるから』ってことになるじゃない。つまり、あなたは周りに流されているだけなのよ」


「そんなことないよ。確かにそう思われても仕方ないのかもしれない。でもね、私が決めたのは『みんなを信じる』ってことなんだ。それは紛れもなく私自身が決めること。それにね、もし私の考えがみんなと違ってたら、私はちゃんと言うよ。本音をぶつけ合える仲間だと思っているから」


「そう。それなら私も本音をぶつけるわね。あなたにはね、普段から甘いところがあると思ってたの。明るくて誰とでも仲良くなろうとするのは、確かに長所でもあるわ。でもね、だからといって私まで巻き込むのはやめてほしい」


「氷奈……どうしてそんなことを言うの?」


 蒼月さんらしからぬ、厳しい物言い。俺は桜野さんが心配になり声をかける。


「おい、大丈夫か?」


「うん、平気。心配してくれてありがとう」


「覚えてるかしら? 一条君が転校して来た日のこと。あなたはすぐに声をかけて、昼食にまで誘ってたわよね。実はあの時ね、私は迷惑だったの。よく知らない男子と一緒だなんて、普通に考えて嫌だと思わない?」


「そっか、そうだよね。うん、確かに私は勝手だったかな。これからは気をつけるよ。それとね、私からも一つ聞いていい?」


 桜野さんはそう言って、蒼月さんを真っ直ぐにみつめた。蒼月さんも真剣な様子に気がついたのか、「何かしら?」と問い返す。


「君は誰なの?」


「あなたは何を言ってるの? あなた自身がさっきから氷奈って呼んでるじゃない」


「そうだね。でもね、その『あなた』って呼び方。氷奈は私のことは『桃華』って呼んでくれるの。どんな時でもね。だって『あなた』だなんて、まるで他人みたいだよね」


「それがどうしたって言うの? 誰かを『あなた』と呼ぶのは自然なことだと思うけれど?」


 確かに蒼月さんの言うことは間違っていない。だけどどうだろう、もしも親友から『あなた』と呼ばれたら。

 親友じゃなくても、家族、恋人、夫婦。親しいと思っていた人から急に『あなた』と呼ばれると、なんだか距離を感じて寂しい気持ちになるんじゃないだろうか。


「君は氷奈じゃない。だから私はもう君を氷奈とは呼ばない」


 そう。目の前にいるのは蒼月さんのフリをした怪異だ。アニメではドラゴン怪異がピンチになると、今みたいに魔法少女達を一人ずつに分断して、その子がもっとも親しくしている子の幻を見せていた。


 そしてその幻に嘘の本音を言わせて、魔法少女達の信頼を壊そうとしていたんだ。

 彼女達の結束は固い。だけどどうしてもほんの少し、心の動揺は出てしまう。怪異はそれをエネルギーにして力を取り戻し、魔法少女達を苦しめた。


 だから俺はこうなる前に彼女達に説明して伝えたんだ。「お前達の前に現れる親友は幻だ。だから幻の言葉に惑わされるな」と。


 桜野さんはそうだと知ったうえで、(なお)も指摘を聞き入れ反省した。

 自分の非を認めることは難しい。でも桜野さんはそれを受け入れ、よりよい自分になろうとすることができる女の子。


「ナイト君、ありがとう。ホントはね、本物かもって思ってたの。だけど話してみて分かったんだ、やっぱり氷奈じゃないって。呼び方だけじゃない、表情や仕草、声、言葉。ずっと一緒にいるとね、分かるものなんだよ」


「俺は何もしていない。それに俺にはそこまで通じ合える存在はいないから、お前達の関係は尊いものだと思う」


 桜野さんはもう一度俺に「ありがとう」と言うと、怪異に向けて言い放つ。


「改めて言うね。君は氷奈じゃない。だからその姿はやめてね」


「桃華、あなたは何を言ってるの……? 冷静になって?」


「やめて」


 淡々と発せられたその言葉からは、桜野さんの静かな怒りが感じられる。それは普段の桜野さんからはとても想像できないような光景だ。


「桃華……、あなた……、とうか……あなた……? 私は氷奈……ヒィナァァ……」


 そんな言葉とともに、まるでドロドロに溶けるかのごとく怪異の表面が崩れゆく。

 そしてそこに残ったのは、影がそのまま立体的になったような、顔も無くただただドス黒い人型の物体だった。

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