第40話 優しい魔法少女たち
思いがけないことに、緑川さんと夏休みに遊ぶ約束をした俺。そして周りには四人の可愛い魔法少女達がいて最高すぎる件。
ふと周りを見ると、男だけのグループもいたりする。もし俺がいなかったら、魔法少女達はナンパされていたかもしれない。いや、きっとされていただろう。
俺が強そうに見えるかは別として、とりあえず男が一緒にいるってだけでも効果があるようだ。
仮にもしナンパ男とケンカになったとして、変身してる時のクセでつい魔法を使う仕草をしてしまうかも。
もちろん発動なんてしないので、中二病の診断待ったなし。高二から中二へ。まさかの義務教育に逆戻りである。
「若葉ちゃんと一条くんは海に入らないの?」
桜野さんが気を遣ってくれている。それは嬉しいんだけど、海で何をすればいいのか分からない。海って暇だよね?
「ありがとうございます。ちょっとだけ……入ろうかな」
緑川さんは乗り気だ。そういうことなら。
「せっかくだから俺も少し入ってみようかな」
俺と緑川さんが立ち上がると、代わりに他の三人がパラソルの下に座った。こうして三人を見てみると座り方にも性格が出ているようで面白い。
桜野さんはぺたんと座っている。女の子座りというやつだろうか? これで上目遣いなんてされたら、何でも言うことを聞いてしまいそうだ。
蒼月さんは両足を同じ方向に揃えて座っていて、どことなく上品な雰囲気がある。横座り・お姉さん座りとも呼ぶらしい。
陽山さんに至っては、あぐらだ。らしいというか豪快というかなんというか、その水着の布面積で、いろいろ大丈夫っスかね?
「おっ、若葉と一条君、またまた二人きりだねー!」
海に向かう俺達を見て、相変わらず陽山さんが俺をからかってくる。からかい上手かどうかは分からない。
ほら、そんないらんことを言うから緑川さんが困ってるじゃないか。
「あの、一条さん。小夏さんの言うことは気にしなくていいですからね……!」
緑川さんが怒って……は、いないみたいだけど表情をあえてセリフにしてみると、「まったくもう!」って感じだろうか。
また緑川さんの新たな一面を見ることができた。
そして緑川さんと一緒に海に入り楽しんだ後、みんなで休憩することに。時刻はまだ正午過ぎ。
海の家に入って五人で同じテーブルに座る。全員がなんとなく座っただけなのに、俺の隣は緑川さんだけで、あとの三人は向かい側という結果になった。
「どうしよう、私、今めっちゃ楽しい!」
陽山さんがかき氷を食べながら、笑顔で言う。
「私もです! なんだかみんなまるで幼馴染のような気がしてます」
「そうね、実際は中学生の頃からだから数年といったところだけど、不思議とそんな感じはしないわね」
「私も……小夏さん、桃華さん、氷奈さん、大好きです」
他の三人もそう口に出すと、全員の視線が俺に向けられた。
「ねぇねぇ、一条君はー? 私達のことどう思ってるのかなぁー?」
また陽山さんはニヤニヤと……! よし、こうなったらハッキリ言ってやろうじゃないか。
「俺も本当にすごく楽しくて、この場にいられることが信じられないくらいで……。俺は友達作りが上手くないから、もし桜野さんが声をかけてくれなかったら、今も一人だったかもしれない。だから……みんなありがとう」
少し大げさかもしれないけど、言わなきゃ伝わらないこともあるから。
俺の言葉を聞いた陽山さんはニカっと笑い、桜野さんはニコニコ笑い、蒼月さんは優しく微笑み、緑川さんは嬉しそうに笑う。
ここにいる魔法少女はみんな優しい。アニメで観てるだけじゃ分からない、彼女達の魅力がまだまだ沢山ある。俺は改めてこの子達のためにできることは全力でしようと決めた。
そしてその後も楽しい時を過ごし、もうすぐ夕方になろうかという時刻。
一通り帰る準備が終わった頃、俺はみんなのもとを離れた。
アニメ第八話は水着回。だけどそのエンディング間近、怪異の出現が確認される。
そしてそのまま『引き』として、第九話に続くようになっている。
その怪異は巨大にして強大。ラスボスと言っても差し支えないようなもの。だけど魔法少女達は勝つ。
それだけならまだいい。だけどその怪異は特別なんだ。
それはなぜか? なぜならその怪異こそが桜野さんが闇堕ちする原因になったから。
俺が今まで回収した怪異はごくわずかなものだろう。
つまりもしも桜野さんがその怪異を回収することになってしまうと、桜野さんが闇堕ちして全てが終わる可能性が高いということだ……!