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第4話 謎の存在ムーブ

 質問。『高校二年生は少女に含まれますか?』 俺の答えは『はい』だ。

 だから桜野さんと蒼月(そうげつ)さんだって、魔法少女と呼んでいいと俺は思う。


 それなら俺はどうだろう? 『魔法少年』ってのはなんだか語呂が悪いような気がするなあ。あの腹黒マスコットいわく俺は最強らしいけど。



 翌日。登校した俺が『主人公席』に座ると、右隣の席の桜野さんが俺の方へ体を向けてきた。


「一条くん、おはよう!」


 太陽にも勝てそうなほどキラキラと明るい笑顔で俺にあいさつをしてくれて、朝から癒される。


 二人ともっと仲良くなりたいけど、桜野さんはともかく蒼月さんと仲良くなれるとは思えない。

 好かれてる嫌われてるとかじゃなく、『無』って感じなんだから。


 蒼月さんとも同じクラスだけど、席が離れてるから意外と話す機会は無い。



 昼休みになった。今日は食堂で注文するつもりなので、何も買ってきていない。


 昨日のうちに一人席もあることを確認しておいたんだ。今日は桜野さんおすすめのカレーを食べてみようか。一人でゆっくり堪能するとしよう。


「一条くん、今日も一緒に食堂行かない?」


「いいの? ぜひ」


 でも桜野さんに誘われて、ぼっち飯計画は始める前に頓挫(とんざ)した。可愛い女の子から誘われて断るなんて俺にはできない。……正直に言うと嬉しいです。


「蒼月さんも?」


「もちろん氷奈(ひな)も一緒だよ。氷奈ー!」


 桜野さんはその場から、離れた席にいる蒼月さんに声をかけた。

 やっぱり明るい子ってすげえな。教室で大声を出すなんて俺にはとてもできない。


 その声を聞いたであろう蒼月さんが、こっちに歩いて来た。そして俺に目を向けて、すぐに()らした。


 えぇ……。なんだか怖いから何か喋ってくれー。心の中で「なんでまたコイツが()んの?」なんて思われてそう。

 口数が少ない人ってこんな感じに見えるんだな。俺もそう見えてるんだろうか?


 三人で食堂に行き、昨日と同じテーブル席に着く。


「あっ、一条くん今日はカレーなんだね」


「昨日桜野さんがおすすめしてくれたからね」


「こんなすぐに試してくれるなんて嬉しいなっ! おすすめしてよかったよー」


 本当に嬉しそうな桜野さんを見ていると、なおさら闇堕ちさせるわけにはいかないという気持ちが湧き上がる。


「桜野さんと蒼月さんは毎日弁当なの?」


「私は週に一日は食堂のメニューにしてるんだよ。たまにはお母さんに休んでもらいたくて」


「私は毎日ね」


「確か蒼月さんは自分で作ってるんだよね。毎朝大変じゃない?」


「そんなことないわ。本当に簡単なもので済ませてるから」


「氷奈は家族みんなの朝ごはんも作ってるんだよね!」


「それは凄いな」


「両親が早く家を出る時は私が妹の分も作ってるというだけよ」


 蒼月さんから妹の話が出た。蒼月さんは妹の病気を治してほしいという願いと引き換えに、魔法少女になった。

 もしも蒼月さんが魔法少女になっていなかったら、妹さんは今も病院のベッドで過ごしていただろう。


 蒼月さんとの会話が続きそうだ。これは仲良くなるチャンス。


「妹さんは何歳?」


 そう聞いてはみたものの、どこまで踏み込んだ質問をしていいか分からない。キモって思われたくないし、女の子と話すってめちゃくちゃ気を遣うんだな……。


「小学五年生よ」


 よかった、答えてくれた。


 次は何を話そうかと考えていると、不意に背筋がゾクっとする感覚に襲われた。

 そして桜野さん達の様子がおかしい。


「一条くんごめん、私と氷奈ちょっと席をはずすね」


 そう言って食べかけの弁当にフタをして、急いだ様子で食堂から出て行った。


 なるほど、これが『お花摘み』というやつか。確かに上品な表現だなあ。……なんて言ってる場合じゃない。カレー食ってる場合でもなかった。


 そしてモノクロになる世界。間違いない、怪異が現れて桜野さん達が結界を張ったんだ。俺も急いで校庭へ向かう。魔法少女ってこんなに忙しいの?


 校庭にいる怪異はアニメ第二話に登場する人型の怪異。


 影がそのまま立体的になったような感じで、身長こそ180センチほどだけど、打撃が効かない。

 攻撃方法が打撃である蒼月さんとの相性は最悪の相手。


 なのでアニメでは桜野さんが苦戦しながらもほぼ一人で倒し、最後にあの白い宝石に吸収した。

 しかしその直後に桜野さんが少しフラついてしまう。


 ほぼ一人で怪異と戦ったことによる一時的な疲れだと視聴者に思わせておいて、実は桜野さんが怪異を吸収できる容量がいっぱいになりつつあるという伏線になっている。


(つまり闇堕ちが近い……?)


 俺が駆けつけた時にはすでに二人は魔法少女の衣装を身にまとい、桜野さんだけで戦っていた。蒼月さんは怪異の気を引く役割をしているらしい。


 俺も変身を済ませて来た。フード付きの漆黒のローブに不気味な仮面。怪しさだけなら百点満点だ。

 実は昨日ちょっと変身してみたけど、思ってたのと違って少しガッカリしたことは内緒だ。


 桜野さんがピンク色の魔法弾を怪異に向けて放つ。命中はしているようだけど、怪異は桜野さんとの距離を縮めていく。

 後ろに下がる桜野さん。そして怪異の腕が伸びて桜野さんの首に手をかけた。


「ぐぅっ……」


桃華(とうか)っ!」


 急いで桜野さんのもとへ駆けつける蒼月さん。普段は物静かな彼女だからこそ、仲間を助けたいという思いが伝わる叫び。


(くそっ! 思った以上に展開が早い!)


 俺は広い校庭を全力で走る。俺が行かなくても桜野さん達は勝つ。そう分かっていても、俺は彼女達に苦しい思いをしてほしくない。


 ひたすら走り、怪異が射程距離に入ったと同時に特大の魔法弾をぶつけた。

 すると一撃で怪異が光り始めた。あとは宝石で吸収すればいいという合図だ。


 でも桜野さんにはもう絶対にあの宝石を使わせない。

 俺は右手のひらを突き出し、怪異を吸収した。直接体に吸収したけど大丈夫なのかこれ?


「怪我はないか?」


 俺はなんとなく声を低くして蒼月さんに声をかけた。


「え、ええ……大丈夫よ」


 さすがの蒼月さんも驚きを隠せないでいるようだ。桜野さんは気を失っている。


「あの、あなたは誰……?」


「その子が持っている白い宝石はもう二度と使ってはいけない。これからはその役目、俺が引き受けよう」


 蒼月さんの質問には答えずに、俺は颯爽と立ち去った。


(変身後の名前、全然考えてなかった!)

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