第38話 水着ハーレム
時は経ち七月上旬。期末テストが終わり、夏休みが近いということもあり、ついダラーっと過ごしてしまいがちな時期。
期末テスト前は、桜野さんに誘われて魔法少女達と一緒に勉強するというような、アニメで描かれてない日常がやってくるかもと思っていたけど、そんなことはなかった。
まあ桜野さんはいつも300人中の50位以内という高順位で、蒼月さんに至っては一桁順位の常連だそうなので、わざわざ俺を呼ぶ必要はないだろう。
俺だって一応、転生前を含めて80位くらいになれるくらいの学力はあるんだけどなー。
それはいいとして、俺はどうにも落ち着かない気分で毎日を過ごしている。
アニメ第八話は水着回。俺は今までアニメで放送された場面に全て出くわすという、皆勤賞を達成している。
ということは、魔法少女達と泳ぎに行くことになる可能性がある。
なのでその時に備え「よし、筋トレだ!」なんて、どう考えても間に合わないことを思ったり、それとなく桜野さんに泳ぎに行く予定があるか聞いてみようなんて考えたりと、ソワソワしてしまっているんだ。
「一条くん、お昼ご飯食べに行こうよ!」
昼休みになり、いつものように桜野さんが声をかけてくれる。蒼月さんも「行きましょう」と言ってくれるようになった。
俺が変身してる時とは違って、親しいクラスメイトとして見てくれているようだ。
俺が変身してる時は……、まあ、その、うん。
たくさんの人で賑わう広い食堂のいつもの席に座り、二人は弁当、俺は唐揚げ定食を前にして話に花が咲く。
「もうすぐ夏休みだねー! 一条くんは何か予定立ててるの?」
桜野さんが俺にそんなことを聞いてきた。もちろん(?)俺の夏休みの予定は白紙だ。逆に毎日何かしらの予定がある人っているんだろうか。どんな陽キャでもそれは無理なんじゃないかと思う。なんか疲れそう。
ともあれ、これは俺からも桜野さんに質問できるチャンス。
「今のところは特に決まってはないかな。桜野さんと蒼月さんは何か夏休み中に予定あるの?」
「私はね、氷奈の家にお泊まりしたり、家族で旅行に行ったりかなぁー。あ、それと小夏さんや若葉ちゃんとも遊ぼうねって約束してるよ」
「私も桃華と同じような感じね。私の場合は妹と出かけるということもあるかしらね」
充実してるなー。俺にもきょうだいがいれば、そんなこともあったかもしれないな。
それにしても泳ぎに行くとは言ってないか。水着回なんて見間違えるわけないと思うんだけどなー。
「そうだ、一条くん、夏休み前の最後のお休みの日、何か予定あるかな?」
「これといっては無いよ」
「実はね、その日みんなで海に行くことになってるんだけど、もしよかったら一条くんもどうかな?」
そうか、夏休みじゃなくてその前だったんだ。さっき俺が聞いたのは夏休み中の予定だ。……なんて平静を装ってはいるけど、心の中ではもちろん「マジか!?」の一言に尽きる。
ある程度の心の準備があったとはいえ、実際に誘われるとめちゃくちゃ慌てるんだな俺。
「あ、みんなってのは私と氷奈、小夏さんと若葉ちゃんのことだからね。それとみんな一条くんに声をかけてみることに賛成してるからね」
どうやら桜野さんは、俺が「本当にいいの? みんなはどう言ってるの?」と聞いてくることを見抜いているらしい。
それでもどこかで遠慮が出ている俺は、蒼月さんを見た。
「男の子がいてくれるだけで安心できることもあるのよ。もちろん誰でもいいというわけではないわ」
「そういうことなら参加させてもらおうかな」
そして当日。目的地である海の最寄り駅で待ち合わせをして、全員がそろったところで出発。そして到着した俺は女の子達が来るのを待つ。
すると一際オーラが違う四人がこちらに近づいて来るのが分かった。
「お待たせ、一条くん」
そう言って俺の前で立ち止まった四人は、見事に全員が可愛く、きっと男なら無条件で喜ぶだろう。もちろん俺もその一人だ。
桜野さんはフリルスカートのついたピンクのビキニで、露出は多いながらも可愛いといった印象だ。白い肌とも合っており、スレンダーでスタイルもいい。
蒼月さんは白のワンピース水着で露出は少なめだけど、それでも普段の蒼月さんよりも露出が多いので、特別感がある。165センチくらいの長身の青髪ロングで、より大人っぽい。
緑川さんは意外にも薄い青のフリルビキニで、一番小柄でありながらも、胸元は油断するとつい目を向けてしまいそうなほどの破壊力だ。
陽山さんは黒のビキニで、布面積が一番少ない。といってもエロいという感じではなく、四人の中ではという意味だ。
でも『布面積』と言ってる時点でエロい印象になるこの不思議。そして胸元の破壊力は緑川さん以上。
「あれー? 一条君どうしたのかなぁー? もしかして私達に見惚れてるのー?」
陽山さんが全力で俺をからかいにきている。ここはひとつ無理してでも余裕を見せてみよう。
「はい、見惚れてました。だってみんな似合ってますから」
俺がそう言うとみんながそれぞれ、こんなリアクションをしてくれた。
「ありがとうー。けっこう迷ったから、そう言ってもらえてよかったよ!」
「ありがとう。たまには開放的になるのも悪くないわね」
「そ、そんなこと言われたの初めて……です。あのっ、そのっ、とっても嬉しいです……!」
「おっ、一条君、素直だねぇー! そう言われると嬉しいもんだね」
まあなんというか当然というか、俺は間違いなく本心なんだけど、特に魔法少女達が照れるといったことはないようだ。
ただ一人、緑川さんだけは他の三人とは違って見えた。
ビーチは本当に多くの人で賑わっており、絶好の天気ということもあって、とても活気がある。
そしてビーチパラソルを設置して、桜野さんと陽山さんが真っ先に海へと向かう。蒼月さんも桜野さんに手を引っ張られる形でこの場を離れた。
パラソルの下には俺と緑川さんの二人きり。
「緑川さんは一緒に行かないの?」
「私はこうしてるほうが好きなんです」
「実は俺もなんだよ」
そして沈黙。緑川さんとならこんな時間も悪くないと思える。緑川さんはどう思ってるんだろう? 俺といて退屈じゃないだろうか?
「あの、一条さん。お話し、しませんか?」
それは緑川さんからの言葉。周りはこんなにも賑やかなのに、二人だけの空間がここにあるような気がした。