第36話 魔法少女、俺の言うことをきく
魔法少女達のリーダーになった俺。どんなことだとしても、まさか俺がリーダーになる日が来るなんて、転生前じゃ考えられないことだ。
「それじゃ早速リーダーに聞くけど、私達に何か指示があったら言っておいてよ」
「指示か、そうだな……」
俺はそう言ってアニメの内容を思い出す。第七話ではついに、ハラグロにスポットが当たり始める。
これまでは魔法少女達の戦いとてぇてぇ日常を織り交ぜて、視聴者にバランスよく見せていたけど、これからはハラグロに対して「ん?」と思うようなことが増える。
怪異と戦うとはいえ、どちらかといえばこれまでは平和的な雰囲気だったけど、だんだんとストーリーが重くなる。
それまで「やっぱり魔法少女は最高だな!」なんて観ていた俺も、そのギャップに驚いたもんだ。そんなところも話題になった要因のひとつだろう。
「ピンク髪の少女よ、おそらく近いうちにハラグロがお前のもとに現れるだろう」
「えっ、私のところに?」
「そうだ。そしてハラグロはお前にこう言うはずだ、『調子はどうだい?』と」
「調子? 順調に怪異を倒せてるのってことかな? それなら調子いいと思うよ」
「そう。だからお前は素直にこう答えるんだ、『順調だ』と。そしてその後に、『でも実は怪異の回収は、どこからかやって来る黒ローブに仮面をした怪しい男が先にやってしまうんだ』と付け足す」
そうすることで俺と魔法少女は、いわば敵対しているとハラグロに思い込ませる。俺と魔法少女が協力してることを悟られないようにするためだ。
そしてハラグロの意識は魔法少女よりも俺に向くはずだ。なぜならハラグロが欲しいのは回収した負の感情なのだから。
ハラグロは何をするか分からない。だから魔法少女に危険が及ぶ可能性を少しでも低くする。
前にハラグロが俺に桜野さんの監視を頼みに来た時、「最近はその集まりが悪くなっているんだよ」と言っていた。
ということは、ハラグロには宝石の使用具合が分かるということだ。
だったら変に誤魔化そうとしても、逆に怪しまれるだろう。
怪異を倒すけど、回収はいつも俺に邪魔されてしまう。これなら魔法少女達にやる気がないとは判断されない。
「うん、分かったよ。私とナイト君は敵同士ってことにすればいいんだね」
「飲み込みが早くて助かる。あと、決してハラグロとは呼ばないようにしてくれ。自分から言っておいて、だが」
こうしてこの場は解散となった。忘れそうだけど、俺は陽山さんと二人でこのアミューズメント施設に来てる最中だ。
他の三人は帰って行き、結界が解除された。俺はその後も陽山さんの希望で、もう少しだけ遊んで帰った。
結果として魔法少女達のリーダーになれたし、陽山さんも無事だったし、思い切って陽山さんを誘ってみたことは間違ってなかったと言っていいだろう。
【それから数日後の深夜】
SIDE 桜野 桃華
まだハラグロは来ないみたいだね。ホントに言った通りになるのかな?
ナイト君、かぁ……。いったい誰なんだろう? 考えても仕方ないか、寝よっと!
私はフカフカベッドに入り、目を閉じて今日も楽しかったなと振り返る。もう少しでいい眠りにつけそうだった時、名前を呼ばれたような気がした。
「桜野 桃華さん、起きてくれるかい?」
暗い部屋の中私が目を開けると、そこにはハラグロが宙に浮いていた。
(ホントに来た……!)
「わぁっ! えっ、なに……!? びっくりした……! えっ、誰……? あっ、君は確か……、ずいぶんと久しぶりだね」
今までもホントにたまーにだけど、何回か姿を見せたことはあった。だけど今日はちょっと緊張するかな。
「ちょっと忙しくてね。そんなことより、調子はどうだい?」
(ホントにナイト君が言った通りになってる)
「うん、順調だよ」
私は間を空けずに、友達と話してるような感覚で答えた。
「でもね、私が怪異を回収しようとするとね、黒ローブに仮面をつけた怪しい人がやって来て、先に回収してしまうんだ」
「そうなのかい?」
「うん、ごめんね。いつも急に来るから、私達もどう対処していいか分からないの。いったい誰なんだろう?」
私がそう言うとハラグロは、まるで何かを考えているかのように静かになった。
「本当にごめんね、私達ももっと頑張るから」
「そうだね。魔法少女としての役目を忘れないようにね。怪異を回収するまでが君達の役目だからね」
「うん、ちゃんと分かってるよ」
私がそう言うとハラグロは、赤い目を光らせて部屋から出て行った。