第35話 これは魔法少女ハーレムですか?
外堀を埋め終わった俺の目の前には、四人の魔法少女がいる。ピンク・青・黄色・緑。こうして見ると、本当にイメージカラーがぴったりだなと思う。
桜野さんが一番女の子らしい、と言えば他の子から怒られそうだけど、いつも使ってるランチボックスひとつとっても可愛らしいデザインの物だったりする。少女と呼ぶに相応しく、この子が主人公であることに不思議な納得感がある。
蒼月さんは、まさにクールビューティーって感じで、もしかしたら学校では密かに氷の女王なんて呼ばれてるかもしれない。
だけどその氷を溶かすほどの情熱的な一面もあるようで、俺が変身している時にそれを感じる。多分これからガッツリ絡むと思うけど、大丈夫だろうか、俺……。
陽山さんもその名の通り、太陽のように明るく、小夏という名前もなんだか夏の日差しを浴びて咲き誇るひまわりを連想させる。
高三で一番年上ということもあり、みんなを率先してまとめようとしてるみたいだ。それが上手くいってるということは、他の三人を見ていればわかる。
緑川さんは高一で一番年下。そして一番小柄で性格は控えめ。たとえ会話をしていなくても一緒にいるだけで癒されるようで、若葉という名前がぴったり合っていると思う。
そして俺。魔法少女が大好き、ラノベが好き、一人が好き、静かな環境が好き。……うーん、改めて自分のモブ適性が高いことに気付かされる。
「活動方針も決まったことだしさ、これからよろしくね、カーメン君」
陽山さんの言葉を聞いた俺は、思わず辺りを見回した。
「ちょっと、聞いてんの? あんたのことだけど?」
陽山さんの言葉をきっかけに、魔法少女は全員俺を見た。
「それは俺のことだろうか? その、カーメンというのは何だ?」
「仮面つけてるでしょ? だからカーメン君」
ネーミングセンスよ……。真っ先にピラミッドを思い浮かべるような名前じゃないか。陽山さん、こんなワケわからん奴に名付ける度胸すげえな。いや、確かに名乗ってない俺が悪かったかもしれない。
「なんというか、他の呼び方で頼む」
「えぇー、いい名前だと思ったんだけどなぁ。みんな、他に何かある?」
「ローブ君、はどうかな?」
「プリンス様、はどうかしら?」
「フードファイター、はどうでしょうか……」
(君がつくとなんだか友達っぽいし、プリンス様は論外だし、それと緑川さん、それはフード違いだからね……)
しかし困ったぞ? まだ俺が名付けるほうがマシかもしれない。……ダークフレイムマスターとか? ……いや、いろいろマズいな。どうもそっち方面に考えてしまう。
「ナイト……、ナイトで頼む」
俺もネーミングセンスがあるとは思ってない。でも一応、魔法少女達の騎士でありたいという願いと、漆黒のローブが夜を連想させることの二つの意味が込められている。
「ナイト……だね。分かった、これからあんたのことナイトって呼ぶからね」
「そうしてもらえると助かる、黄色の少女よ」
「そう、それ! その黄色の少女っての、なんとかならない? 私の名前は陽山小夏だから」
「承知した、陽山よ」
「うわ、なんかそっちの方が違和感あるわ。小夏でいいよ」
「いいのか? 下の名前だぞ? 自分で言うのも変だが、こんな奴に呼ばれたくはないんじゃないか?」
「別にいいよー。私がどう感じるかだから」
「私も桃華でいいよ!」
桜野さんもそう言ってくれたけど、なるべくなら呼ばない方がいいかな。
「氷奈! 私は氷奈だから!」
声でっか! でも多分蒼月さんも呼ばないかな。
「私は緑川若葉っていいます……。あの、多分、緑川って言いにくいと思います。なのでお好きに呼んで、ください……」
緑川さんについては、なんだかこの姿で下の名前を呼ぶのは申し訳ない気がする。
「それぞれ承知した」
「で、あとリーダーもあんたにお願いするね」
「別にいいが、結局『あんた』なんだな……。あと俺がリーダーとはどういうことだ?」
「だってあんたにしか分からないことがあるじゃない? だったら指示を出すことになるだろうし」
「それはそうだが、いいのか?」
俺がそう言って全員を見ると、全員が頷いた。
「はい、決まりね。元々リーダーなんて、あってないようなものだったし。私が一番年上ってだけだからね」
こうして俺は魔法少女達のリーダーになった。モブからの大出世である。そして第七話へと続くのだった。