第34話 終わりました
変身した俺と陽山さんのもとに、三人の美少女が姿を現した。
桜野さん、蒼月さん、緑川さん。当然だけど全員が変身しており、魔法少女達が俺達めがけて走って来る様子を見て、俺はモテてるんだと錯覚しそうになるほどだ。
「小夏さんっ! 無事ですか……?」
桜野さんが心配そうに声をかけながら、全員が陽山さんのそばに駆け寄り、そっと手を握ったり抱きしめたりしている。それはアニメ第六話と同じ光景だった。
アニメの内容と違って、陽山さんが無傷という結果であっても同じ光景になったことに、俺は魔法少女達の絆の深さを改めて感じ、少し離れたところから温かい気持ちでそれを見守る。
ただ一つ、「ん……?」と思ったのは、蒼月さんだけが俺をチラチラと見てくることだ。まるで「混ざらないの?」とでも言いたそうに。
そりゃできることなら混ざりたい、混ざりたいが……! 女の子だけのてぇてぇ光景に、こんなフード付黒ローブ仮面男が混ざれるわけないでしょ。
「みんな……、ありがとう! この通り私は元気だからね!」
陽山さんが両手で三人を抱きかかえながら言う。それはまるで姉妹のようだった。
その様子が落ち着いたあと、陽山さんが「じゃあそろそろ……」と言って顔を俺に向けた。それを見た三人も合わせて俺を見てきたので、俺は魔法少女全員の注目を集めていることになる。
「実はさ、私が無傷でいられたのは一緒に戦ってくれたからなんだ。私の魔法が効かなかったし、もし私一人だったらどうなってたか分からなかったよ」
陽山さんの言葉を聞いて、今度は桜野さんが口を開いた。
「君は本当にいつもいるんだね」
「俺が怪異の回収をするためだ。そして何度も言ってるが、俺はお前を救うためにこうしている。さらに言うとお前達を怪異との戦いから解放したいと考えている」
「私達を怪異との戦いから解放するって、どういうこと? 私だけじゃなくてみんなも救うって話?」
「そうだ。いつまで怪異と戦い続ければいいんだろうと考えたことはないか?」
「それは……あるよ」
桜野さんがそう言葉にした。あとの三人は何も言わないけど、誰もその言葉を否定せず、俯いている。もしかすると一生続くのかもしれない。それは魔法少女全員からの言葉ということなのだろう。
「お前達二人は覚えているか? 俺が『お前達は騙されている』と言ったことを」
「私達が魔法少女になるきっかけになった、黒い猫のようなウサギのような可愛い動物に、だよね?」
「そうだ。そいつの名前はハラグロといってだな、別世界の住人だ。だからこの世界の生き物じゃない。『世界を救う手助けをしてほしい』なんて言っておきながら、その世界とはハラグロの住む世界のことを指している」
ハラグロが魔法少女達から可愛らしい名前で呼ばれるのはもう少し後からなので、俺が先にハラグロと呼ぶことで、あのマスコットの名前は『ハラグロ』になるだろう。
力を与えた後は特に様子を見に来ることもなく、ただ放任して桜野さんの闇堕ちを待ってるだけなんだから、あいつがどう呼ばれようとも俺は知らない。
「アハハッ! ハラグロって、まんま腹黒ってことじゃん!」
陽山さんが豪快に笑う。だけど少ししてから真剣な表情になり、全員に話しかける。
「確かにそれがホントなら、私達はハラグロに騙されてるってことになるね。いや、『この世界』とは言ってないから、ウソじゃないのかな? でもそれって私達が勝手に勘違いしたのが悪いって言われてるみたいで、やだなー」
「それは私も思いました。氷奈も同じなんだよね?」
「そうね。人の弱みにつけ込むようなやり方はよくないと思うわ」
「私も……そう思います」
魔法少女達はそれぞれがそう言いながらも、どこか儚さがあるように見えた。
きっと彼女達も分かっているのだろう。魔法少女になったのは願いと引き換えだったということに。
このアニメが話題になった理由の一つがそこにあると俺は考えている。ハラグロは悪か否か。これは人によって本当にいろんな意見や考え方があり、最終話の放送後はネットが盛り上がっていた覚えがある。
でもだからといって、最初から桜野さん達を利用するつもりだったというのが、やっぱり釈然としない。だってそれは桜野さん達がどうなってもいいと思ってるということだから。
すると重くなりつつある空気を変えようとするかのように、陽山さんが明るい声を出す。
「とりあえず、怪異が出たらなるべく五人で戦うってことでいい? で、桜野ちゃんはもう怪異の回収はしないようにする」
「小夏さん……。氷奈と若葉ちゃんはどう思う?」
「私はずっと前からそのつもりよ」
「私も……それがいいと思います」
三人の意思を確認した桜野さんの表情が、少し凛々しくなった。まるで何かを決意したかのように。
「うん、分かった。それなら次から怪異の回収は君に任せるね」
「ああ、任せろ」
まだ完全じゃないかもしれないけど、とりあえずは魔法少女全員の意見がようやく一致した。だから俺は心の中でこう宣言する。
(外堀、埋め終わりました)