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第32話 優しいギャル

 休日の昼。俺は今、目的地であるアミューズメント施設の最寄駅で陽山(ひやま)さんを待っている。約束の三十分前だ。いつものことだけど遅刻は絶対にダメ。


 アニメ第六話だと、陽山さんが他の魔法少女と一緒にいない時に怪異が出て、一人で戦うことになりケガをしてしまう。


 そうさせないために、強引だったかもしれないけど俺が陽山さんを誘った。もちろん、と言ったら悲しくなるけど、俺が女の子を誘うなんて初めてのことだ。


 陽山さんがいる場所がアニメとは違っていて、さらに俺がいる。アニメとは全く別の状況だと一体どうなるのだろうか。


 ここも大きな駅で、改札を通る人は多い。果たして陽山さんを見つけることができるか?


 スーツ姿の社会人、制服姿の学生、俺と同い年くらいで私服の男女、家族連れ。この世界でも本当にいろんな人が生活してるんだなと実感できる。


(ギャルはどこだ?)


 俺は金髪ギャルに狙いを定めて探す。すると一際目立つ女の子が目に映った。

 その子が改札の向こうからこっちに来ているのが分かったので、俺は出迎えるため改札に近づいた。


「あっ、一条くーん!」


 その子は俺に気がつくと、まだ改札を通ってないのに声をかけてくれ、手を振ってくれた。

 そして改札を通り、俺の前まで来てさらに一言。


「ごめんねー、待たせちゃったかな」


「まだ約束の時間になってませんし、全然そんなことないです。陽山さん、今日は来てくれてありがとうございます」


「まさか一条君からお誘いがあるなんて思わなかったよー」


 そう冗談めかして言う陽山さんは、肩あたりまである金髪をサイドポニーテールにしており、ロゴ入りの白いTシャツにデニムのショートパンツ姿で、なんというか、ギャル! って感じ。俺の中でのイメージだけど。


「ねぇねぇ、私を見て何か気づかない?」


 え……、俺に女の子のちょっとした変化なんて分かるのか……? 適当に答えるのが一番ダメだよな?


「いつもと髪型が違いますね」


「うーん、正解だけど不正解かなー?」


「おっしゃる意味が分かりません」


「んー、じゃあヒント! 私の服装に見覚えない?」


 そう言われたので、陽山さんの全身を見て何かを思い出そうとする。


「一条君、そんなに私を見つめちゃって、何を考えてるのかなー?」


「それはさすがに酷すぎじゃないですかね……」


「アハハッ! ごめんね、つい。でも服装がヒントってのはホントだよ」


 みんなと一緒にいる時はそこまで気にしてなかったけど、改めて見ると陽山さんのスタイルは抜群だ。特に足がスラっと細くて長い。


「もしかして、俺が偶然みんなと会った日に試着してた服……ですか?」


「当たりっ!」


 マジか……。緑川さんに続いて陽山さんまでもが、そんなことをしてくれるだなんて。すぐに分からなかったことが申し訳ない。


「一条君が喜んでくれるかなって!」


「あ、えっと、嬉しいです」


「めっちゃ素直じゃん!」


 そうだった、俺の女の子への耐性はゼロに近いんだった。今日陽山さんを誘ったのだって、アニメの通りになってケガをしてほしくないからで、そのことは特に考えてなかったんだ。


 それから施設内に入り、陽山さんといろいろ見て回った。ゲーセンで白熱したり、全く想定外のボウリングもした。


 さすが陽山さんというか、いつの間にか俺が陽山さんに付いていくみたいになっていた。

 俺よりも陽山さんのほうが楽しんでおり、ただ純粋に楽しいことが好きなんだろうなと思った。


 そしてクレープを買い施設内のベンチで並んで休憩していると、陽山さんが少し真剣なトーンで話し始めた。


「そういえば一条君、若葉のお父さんへの誕生日プレゼント、一緒に買いに行ったんだってね?」


「えっ? はい、そうですけど、緑川さんから聞いたんですか?」


「うん。その日は私もみんなも都合がつかなくてね、若葉が心配だったんだ。でも一条君と一緒だったって若葉から聞いて、安心したんだよ」


 緑川さんと一緒どころか、陽山さんも変身した俺と会ってるんですけどね。


「自分で言うのも変ですけど、俺ってそんなに信用ありますか? 緑川さんと会ったのだって、初対面の時の一回だけだったんですよ」


「私がそう思ったのは、桜野ちゃんと蒼月(そうげつ)ちゃんが一条君と仲良くしてるからかな? 私は他の人は絶対に知らないあの二人の姿を見てるから分かるんだ。あの二人は本当にいい子だよ。私にとってはそれが大きな理由になるの」


 陽山さん、魔法少女になってる時も同じことを言ってたな。


「私のこと流されやすいと思う?」


「いえ、信じられる人がいるのは素晴らしいことだと思います」


「ありがとう。だからさ、これからも若葉と仲良くしてあげてね!」


「俺でよければ」


「あ、なんかこれから私に何かよくないことが起こるみたいになったけど、そういうことじゃないからね!」


 陽山さんもまた、他の魔法少女と同じように、自分よりも他の人を案ずることができる人だ。


 クレープを食べ終えた俺達は、次に何をするか話すことにした。

 だけど俺は油断していた。今日はもう怪異は出ないだろうと。


「俺、ゴミ捨てて来ますね」


「えっ? いいよ、それくらい私がするよ?」


 俺は陽山さんの手からクレープの包み紙を優しく抜き取って、その場を離れた。

 さすがに強引だと思ったけど、急だったから仕方ない。


 状況を変えたにも関わらず、怪異が出たんだ。陽山さんが結界を張ったので、俺も変身して気配を頼りに怪異のもとへ急ぐ。


 駐車場に怪異が出現している。間違いない、第六話で陽山さんにケガをさせた怪異だ。


「また会ったな、黄色の少女よ」


「やっぱり来たね。だけどあんたの出番は無いよ」


「待て、あいつは強い。お前一人では厳しい」


「前に言ったじゃん、私はあんた自身を信用してるわけじゃないってね」


「分かっている。だがそれとこれとは別だ。ならこうしよう、共闘ということならどうだ?」


「ふーん、そこまで言うならそれでもいいけど、私からは離れてよね」


「承知した」

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