第3話 俺は最強になったらしい
俺が自室で寝ようとしていると、アニメに出てくるマスコット的キャラクターが目の前に現れた。
知ってる。俺は知ってるぞ。こいつが桜野さん達を魔法少女にしたんだ。
いや、『そうさせるように仕向けた』と言ったほうが正しいか。
桜野さんのお母さんと蒼月さんの妹が、それぞれ完治の見込みがない大病にかかってしまっている時、突如としてこいつが現れた。
そして当時中学生だった少女にこう告げた。
「僕ならその病気を治してあげられるよ。その代わり、君には世界を救う手助けをしてほしいんだ」
大切な人が苦しそうにしている姿をずっと目の当たりにしていた少女は、まさに藁にもすがりたい思いだったに違いない。
たとえそれがどんなに怪しく信じられないような話だったとしても。
そして少女は願った。「大切な人を助けてください」と。戦い続けた果てに桜野さんが闇堕ちすることを知っていながら、こいつはそんな弱った心につけ込んだんだ。
そんなことを知らない少女達は迷わずそれを受け入れた。すると本当に病気が完治して、二人の大切な人はそれぞれ今も元気な姿で暮らしている。
確かに大きなメリットがあったといえるけど、どこか釈然としない。そんな奴が俺の目の前にいる。
「一条 早真君。魔法を使ってみたくはないかい?」
「誰だっ! 黒猫……? ウサギ……? 浮いてる……!?」
俺は驚いたフリをした。こんなの普通は誰だって驚くはずだ。俺がこいつのことを知ってることがバレないように警戒しないと。
「君には魔法使いとして、とてつもない素質がある」
「やっぱり喋ってる!? それに魔法って……?」
「お願いだ、僕と一緒に世界を救ってくれるかい?」
「いきなりそんなこと言われても……。それに素質があるとかよく分からないし信じられない」
だって俺、少女じゃないし。アニメでは中学生から高校生くらいまでの女の子が最も魔法使いの素質があるとされていた。
今こいつとしてるやり取りは俺の演技なんだけど、俺が魔法少女に勧誘される話なんてアニメにあるわけないので、俺に素質があるという話は想定外だった。
でも確かに結界の中でも俺は動けていたり、不思議だなとは思っていたけど。
俺は不審がられないように、知ってるけどなぜ魔法使いが必要なのか等の事情を聞いておいた。
魔法少女は桜野さんと蒼月さんを含めて四人だということ。
そして今はまだ怪異の出現はこの街の中だけで収まっているけど、放っておけばどんどん広がってしまうだろうということだ。
「もちろんタダでとは言わない。もし引き受けてくれるのなら、君の願いをなんでも一つ叶えてあげるよ」
アニメと違って俺には選択権があるようだ。俺の願い……か。
「魔法少女を全員やめさせてあげてほしいというのは?」
「それはできないよ。僕は力を与えることはできるけど解除はできないんだ。それに彼女達が魔法少女をやめたら、一体誰が怪異と戦うんだい?」
「だったらその怪異というものが発生しないようにしてほしいって願いじゃダメ?」
「怪異は人の負の感情から生み出されるんだ。だから僕が手出しできることじゃないんだよ。全ての人がそんな感情を抱かないなんて、できると思うかい?」
なんでも叶えるって言ってたのに。だけどこのままただのモブでいる限り桜野さんは救えない。だったら……!
「それなら俺を最強の魔法使いにしてほしい」
俺が代わりに戦えばいい。魔法少女達を守り、そして桜野さんにあの宝石を使わせないようにする。
「そういうことなら心配いらないよ。君は願わなくても最強になる素質がある」
だから俺は一人でも怪異に勝てるし、あの宝石が無くても、暴走した負の感情を吸収して受け止めることができるのだとか。
「分かった。だったら俺にその力を授けてくれないか」
「協力に感謝するよ」
そして俺の身体が光り始め、不思議な高揚感に包まれた。これ何かヤバいやつじゃないだろうな?
やがてそれが収まると、腹黒マスコットが口を開いた。
「これで君は最強の魔法使いになったよ」
ここまでしておいてさすがに嘘じゃないだろうから、後は桜野さん達が戦わなくてすむように、俺が怪異を倒せばいいだけだ。
最強と言われれば試したくなるけど、怪異は出ないに越したことはない。でも俺TUEEEもしてみたい。……これは俺が謎の存在として暗躍するパターンなんだろうか!?