表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/71

第28話 魔法少女と触手

 ダンジョン怪異とでも呼ぼうか。今、俺と緑川さんは怪異の腹の中にいるようなもの。……やっぱ腹の中って表現は嫌だな、怪異が作り出したダンジョン内って言い方にしよう。


 つまりこの中では怪異の意思が常に働いており、ここにいる限り気の休まる時は無いということだ。


(なんとかして緑川さんと一緒に行動しないと)


 少しだけ近づいてくれたとはいえ、俺と緑川さんとの距離は五メートルほど。これは心の距離なのか? 遠いなぁ……。物理的にも早くお近づきになりたいものだ。


「今はこの建物全体が怪異と化している。つまりこの中にいる限り、常に危険だということだ。なので一刻も早く脱出する必要がある。ここはひとつ、共闘しようじゃないか」


 そう説得すると緑川さんは俺と向き合いつつ、無言でジワジワと俺との距離を詰める。あと四メートル、三メートル、二メートル……。だが、そこでピタリと止まる。手を伸ばしても届かない距離だ。


 ま、まぁこんなものかな。パーソナルスペースってものがあるらしいから。さっきはあんなに近くでマグカップ選んでたのに。


 このデパートは七階まであり、俺達がいるのは三階だ。アニメでは一階にあるエントランスから脱出していた。なのでここは素直に一階を目指そう。


「一階にあるエントランスを目指すことになるが、それで構わないだろうか? 他に何か考えがあるなら聞くが?」


 緑川さんはコクコクと首を縦に振りつつも、俺との距離は変わらない。


(なかなか強力だぜ、緑川さんのATフィ……、おっと、これ以上はやめておこう)


 結界の中はモノクロになっているため、何がどこにあるかというのが分かりにくい。

 だけど俺と魔法少女と怪異は普通に色づいて見える。


 だからハッキリと分かる。天井にある目玉のようなものが俺達を見ていることが。

 その大きさは三十センチほどだろうか。それが数メートルおきに等間隔で配置されており、まるで監視されているようで不気味さを加速させている。


 アニメでは桜野さんがそれに魔法弾をぶつけて破壊していたけど、またすぐに再生していたので、攻撃しても無意味だ。特に何をしてくるわけじゃないので、気にせず進む。


 さらにアニメのことを言うのなら、桜野さんが緑川さんの手を引いて、まるで守るかのようにして進んでおり、桜野さんの頼もしい一面が見られる回になっている。


 俺もそうしたいところだけど、手が届かないものは仕方ない。


「俺がお前の盾になる。だから俺のそばから離れるな」


 俺がそう言うと緑川さんは俺の後ろに回り込んだ。だけどその距離は二メートルほどで変わらない。


「そうだ、それでいい。安心しろ、お前に手出しはさせないから」


 それを聞いた緑川さんはコクンと、ゆっくり(うなず)いた。


 フロアの内装はもはやデパートのものではなく、レンガを積み重ねたような壁で仕切られており、迷路のようになっている。


 ならばと思い壁を破壊しようとしてみたけど、魔法が吸収されてしまい手応えがない。

 飛び越えられる隙間もないため、素直に迷路を進むしかなさそうだ。


 時々振り返って緑川さんがついて来ていることと、何か異変が無いかを確認する。

 結界の中では怪異の気配と居場所を察知できるので、後ろからの攻撃にも対処できる。

 とはいえ、この時ほど後ろにも目があればいいのにと思ったことはない。


 それでも横並びにしないのは、前に進む以上はRPGの如く前衛が最も危険だと判断したからだ。


 デパートの階段があった方向だけを頼りに進むと、拍子抜けなくらいあっさりと階段が見つかった。エスカレーターは見当たらなかった。


 エレベーターを使わない理由は、機能しているとは思えないことと、密室になることを避けたいから。


「よし、降りるぞ」


 二階に降りてから後ろを振り返ると、緑川さんとの距離は一メートルほどに縮まっていた。


 ところが一階への階段が見つからない。通常は階段は隣接されているものだけど、代わりに迷路が広がっているのみだ。


 今度は階段の場所の見当もつかない。なので迷うかと思ったけど、アニメでは怪異が階段を守るように配置されていた。なので気配察知で一番大きな反応を頼りに進む。


 その途中、怪異が近づく気配がしたので身構える。すると表現できないほどに異形のものが、いくつも来て行く手を阻む。


「邪魔だっ!」


 俺はそれを魔法弾で蹴散らしながら前へと進む。途中で緑川さんに「怪我はないか?」と聞く度に、緑川さんは小さく頷いてくれる。


 迷路はそこまで複雑じゃなく、階段が見つかった。ただやはり怪異が守っている。

 その姿はまるでクラゲのようで、大きさこそ数メートルといったところだけど、触手のようなものが無数にあり、ウネウネとうごめいている。


 アニメでは桜野さんと緑川さんの二人で戦い、傷付きながらもなんとか倒していた。


 この怪異はどういうわけか緑川さんばかりを狙っているようで、ロクなことにはならない予感しかしないため、伸びようとする触手を全て俺が魔法剣で斬り伏せる。


「安心しろ、お前には指一本触れさせない!」


 怯える緑川さんにそう声をかけ、そうしているうちに、怪異の触手が全て無くなった。だけど再生しようとしているようで、少しずつ生えてきている。


「させるかっ!」


 俺は魔力を溜めた魔法弾を放ち、本体ごと焼き尽くした。


「大丈夫か? 何か体に異変はないか?」


 俺が改めて聞くと、今まで黙っていた緑川さんが口を開いた。


「あの……、ありがとう、ございます……」


 俺はその一言がたまらなく嬉しかったんだ。


「気にするな、俺がやりたくてやってることだからな」


 一階に降りると、緑川さんとの距離はさらに縮まっていた。さらにローブが少し引っ張られるような感覚があったので見てみると、緑川さんが俺のローブをちょこんと掴んでいた。


 そんな緑川さんを見て、俺はそのことには触れずに先に進むことにした。


 一階はデパートの内装そのものだった。ただ尋常じゃない数の怪異がいて、俺は大切な女の子を守りながら、それらを全て一撃でねじ伏せていく。


 やがてエントランスにたどり着くと、ついに入り口が見えてきた。あとは脱出して回収すればいい。だけど入り口に誰かがいる。


「若葉っ! 大丈夫? どこにいるの?」


 そこにいるのは魔法少女に変身した陽山(ひやま)さんだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ