第27話 落差
アニメ第五話。それは緑川さんにスポットを当てた話。
俺が思うにアニメにはキャラクターの掘り下げ回というものがあって、特定のキャラクターをメインにした話がある。
そのキャラクターはどういう性格で、何を考えていて、どんな背景があるのかを視聴者に伝えるためのものだ。
それがあることにより、そのキャラクターに感情移入をして、応援したくなる。第五話はまさにそんな話。
ただアニメでは緑川さんと一緒にいるのは桜野さんだったんだよなぁ。でも全てのことがアニメの通りになったらそれはそれで、この世界の人々があやつられてるみたいで嫌だなとも思う。
怪異が出るのは午後二時ごろ。アニメで桜野さんが緑川さんに、「もうすぐ二時かぁ。ちょっと遅くなったけどご飯食べに行こっか!」と話しかける場面があるので、それで合ってるはず。
怪異が出る前兆として、背筋がゾクっとする感覚があるため、それからその場を離れても問題はないはずだ。
だけど緑川さんからすれば、急にその場を離れるおかしな奴に見えることだろう。さすがに俺だっておかしな奴だと思われたくはない。
分かってはいても、実際に怪異が出るまでは何もできないのがツラいところ。
それでも今回は映画館での話だった第三話と同じように、時刻が分かっていてスタンバイできるだけマシだろう。
何も起きなかった場合にもそなえて、緑川さんから少し離れた場所にある自販機の前で待機している。
一番いいのは怪異が出ないことだけど、どうやらそんなうまい話はないようで、背筋がゾクっとする感覚に襲われた。
そして結界が張られた。緑川さんで間違いないだろう。俺もすぐに変身して、俺を待ってくれている緑川さんがいるであろうベンチへ駆けつける。
そこには変身した緑川さんが一人で不安そうに、辺りを見回しながら立っていた。
「緑髪の少女よ。一人で不安なのではないか? 俺も協力しよう」
俺が後ろからそう声をかけると緑川さんは振り返り、俺を見るなりビクッとして俺から距離をとった。
「あ、あ……、あなたは……」
うーん、見るからに警戒してるな。そういえば全員で死神怪異と戦った時、緑川さんの反応だけ見れなかったんだっけ。
「そう警戒しなくていい。初対面というわけでもないだろう?」
「わ、わた、私はっ……、あまりこっちに来ないで、ください……!」
悲報:俺への信用、一瞬にしてゼロになる。
この落差よ……。分かってた、分かっていたとも! 今の俺は俺であって俺じゃない。
でもこの姿だって、れっきとした俺であり、変身してない時の俺は信用されてたはずだから、俺自体が信用されてないわけじゃない。
つまり俺は信用されているといえる! ……哲学か何かかな? あーもう訳わかんねー!
「分かった、ただ俺はお前の味方だということは伝えておきたい」
俺はそう言ったけど、緑川さんが警戒を解いた様子はない。
こんな状況だとしても笑顔の一つでも見せれば、少しは安心してもらえるかもしれない。でも俺は仮面をつけているから、表情で何かを伝えることはできない。
さらに声から俺だと分からないようにもしているから、行動で示すことが一番なんだ。というかそれしかないかもしれない。
「信用してくれとは言わない。ただ俺だって怪異を倒すことが目的だから、利害の一致ということならどうだ? それでも納得してはもらえないだろうか?」
すると緑川さんがゆっくりと、そろりそろりと、少しだけ近づいて来てくれた。
一応、死神怪異との戦いで俺と陽山さんが協力したところを見せているし、その時は緑川さんが防御障壁で守ってくれていた。だからそれが少しは効いているのだろう。
本来ならそれでもいいんだ。俺が怪異を倒せばいいだけなんだから。だけどこの状況においては、それだと困る。
なぜなら第五話の怪異は通常のものじゃないから。今までみたいに姿かたちがあるわけじゃなく、このデパート自体が怪異となっており、まるで迷路のようになっている。ダンジョンと呼んでもいいかもしれない。
そして怪異を回収するためには外に出ないといけない。だから二人で協力することが望ましいのだけど……。
果たして全っ然信用されてない状態で、脱出することができるのだろうか……?