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第25話 無口だからこそ

 緑川さんと並んで歩く。俺は平均的な身長だと思うけど、それでも歩幅にけっこうな差がある。俺の歩くスピードは爆速だという自覚があるので、緑川さんに合わせて速度を落とす。


 改札からオブジェまでの距離を意識して歩いてみると、数分で着くとはいえ、移動しなくてすむのならその方がいいと思える距離だ。


 それをわざわざ改札まで出迎えに来てくれた緑川さんに、改めて感謝をした。


「お父さんにあげる物、大体の目星はついてるの?」


「そう、ですね。考えてはいるんですけど、私一人じゃ考えがまとまらなくって……」


 確かアニメでは緑川さんの両親は40歳くらいだったはず。40歳か……。俺がその歳になった時、一体どんな生活をしているんだろう。果たして結婚しているのだろうか。


 デパートに着くまでの間、俺はなんとか会話を続けようとする。お互いに黙ったままだと、緑川さんが退屈してるんじゃないかと不安になるから、なんとか話題をひねり出した。


 質問が多くなったけど緑川さんはその度に真剣に考え答えてくれて、時には笑顔も見せてくれた。その様子を見て俺も笑顔になる。そして気が付けばデパートに到着していた。


 中に入ると、休日のデパートの人の多さに圧倒されてしまった。どうやら緑川さんも人混みが苦手らしい。


「どこから見て回ろうか」


「雑貨屋に行きたいです」


 向き合って相談する俺と緑川さん。何にするつもりか聞いてみると、プレゼントの第一候補はマグカップとのこと。

 どうやらお父さんは毎朝コーヒーを飲む習慣があるそうで、そのお父さんが最近何気なく、「このマグカップも長く使ってるなぁ」と口に出したんだとか。


 欠けたとかじゃないからまだ使えるけど、汚れが落ちにくくなった、でもまだ使える。確かにそんな感じで、買い替えるタイミングを判断しづらい物かもしれない。


「それじゃ行こうか」


 俺がそう言って少しだけ右を向くと、背の高い男がけっこうな速さで真っ直ぐに、緑川さんのほうへと歩いて来ているのが目に映った。


 どうやら歩きスマホをしているようで、避けようとする素ぶりはなく、緑川さんはまだ俺の方に体を向けており気が付く様子はない。歩きスマホ、マジで危ないな。


(このままだとぶつかって緑川さんが危ない!)


 そう直感した俺はすぐさま左腕で緑川さんを抱き寄せた。俺の心臓の辺りに、とても温かな体温が伝わってくる。


「ひゃあぁぁっ……!」


 悲鳴とも驚きともとれる高い声。緑川さんがそんな声を出した。これはやってしまったか……? とっさのこととはいえ、女の子を抱き寄せるだなんて。


「一条さん!? あ、ああぁのっ、そのっ……! 急にっ……! ど、どうしたんですか……!?」


 抱きかかえているため表情は見えないけど、きっと目がグルグルと渦巻き状になっているんだろうなという声。


 これではまるでデパートの人混みの中、平然とイチャつくカップルみたいだ。

 俺は緑川さんをそっと俺の体から離した後、謝罪した。


 一瞬での判断だったとはいえ、ヘタをすれば一発で避けられるような行動をとってしまったことに反省した。でも後悔はない。

 確かに避けられるのは嫌だけど、緑川さんにケガがなくて良かったと本心から思えるから。


「ごめん! 歩きスマホをしてる人が緑川さんにぶつかりそうだったから、危ないと思って……!」


「い、いえっ! そんなっ! 一条さんが私のためを思ってしてくれたことですよね? だったらっ! 私がお礼を言わなきゃ!」


 緑川さんはそう言うと深々と頭を下げて、お礼の言葉をくれた。


 そんな緑川さんを見ていると、魔法少女だからってだけじゃなくて、一人の女の子としても応援したいなという気持ちになった。


 それから広い雑貨屋に入ると、本当にたくさんの物が並んでいて、二人で「あれがいいかも、でもこっちのもいいよね」なんて相談しながら楽しく過ごすのもいいな、なんてことを思い浮かべた。


 二人で見て回っていると、緑川さんが小走りで先に行き、俺の方を見て少しだけ大きめの声で、


「一条さん、マグカップありましたー!」


 と、いろんな種類のマグカップを見つけた緑川さんが少し遠くから、どこか嬉しそうな声で俺を呼ぶ。


 そこには初めて会った時の無口少女の印象とはまるで違う、とても表情豊かな少女の姿があった。

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