第24話 俺、攻略されそうになる
俺の人生初デートの相手は緑川さんだ。転生前の俺は女の子との接点が皆無。だけど転生してからは、桜野さんという魔法少女が隣の席になる奇跡が起きた。
その縁もあって、女の子二人と休日に出かけたり、休日を四人の魔法少女(変身前)と過ごしたり、俺にとっては夢のようなことが起きたんだ。
だけど今度は緑川さんと二人きり。これはもうデート以外のなにものでもないだろう。
緑川さんが俺のことをどう思ってるかは分からないけど、少なくとも嫌われてはいないはず。
あれかな、やっぱり魔法少女女子会を偶然カフェで見かけて、同じ時間を一緒に過ごしたからこそ、この約束につながったんだろう。
そしていよいよ当日。目的は緑川さんのお父さんの誕生日プレゼントを買うことだ。なので大型デパートへ行くことに。
デパートの最寄駅の近くにある、オブジェの前で待ち合わせをしている。
緑川さんは徒歩で来れる距離らしいけど、俺は電車に乗って行くことになる。でもそれくらいのことは全く苦にならない。
電車に揺られること十数分。目的の駅に到着。休日の昼間ということもあり、かなりの人で賑わっている。
約束の時間まではまだ三十分ほどある。前に初めて桜野さんと蒼月さんと出かけた時に俺は、約束の一時間前に到着して逆に気を遣わせるという結果になった。
だから今回はその反省をふまえて三十分前にしてみた。遅刻は絶対にダメ。
改札を抜けると、誰かが近づいて来るのが分かった。肩まである美しくゆるふわな緑系の髪をしており、どこか幼さの残る顔立ちの女の子。
「あっ……! 一条さん、こっちです」
俺に気が付いた緑川さんが、人とぶつかりそうになりながらも、出迎えに来てくれた。
「確か待ち合わせはオブジェの前だったと思うんだけど、緑川さん、もしかしてここで待っててくれたの?」
「はい。ここで待てば一条さんを見つけやすいかなって……」
改札からオブジェまでは数分ほど歩かないといけない。デパートへ行くためにはオブジェからのほうが近いので、そこからわざわざ改札に来る必要なんて無い。なのに緑川さんは来てくれた。
「ありがとう。それと待たせてしまってごめん」
「いえっ! 私が早く来すぎただけなので、一条さんはなんにも悪くないですっ」
あたふたしながら、気遣いの言葉をかけてくれる緑川さん。そしてそんな時はハッキリと喋ってくれる。きっと相手に嫌な思いをしてほしくないという気持ちの表れだろう。本当にいい子だ。
実はもう一つ気になることができたので、俺は緑川さんに聞いてみることにした。
「その服ってもしかして、五人で出かけた時に試着していた服?」
「はい。そう、です」
ひざが隠れるくらいの長さで、薄い青色をしたワンピース。それは六月の暑さを和らげてくれるような、とても清涼感のある服装。緑川さんの透き通るような白い肌にとても合っている。
まさかとは思うけど、俺が「似合ってる」って言ったからわざわざ着て来てくれたとか? よし、聞いてみよう。
「もしかして俺が似合ってるって言ったから、着て来てくれたのかなー? ……なんてね」
俺がそう言うと緑川さんは、俺の反応を確認するかのように、恐る恐るといった様子で顔を見上げてきた。
緑川さんの身長は150センチもないと思われるため、自然と上目遣いになっている。なかなかの破壊力だ……。
「当たり、です……」
マジか……。なんて可愛いことをする子なんだろうか。なんだか「似合ってる」の一言で済ませたことが申し訳ないとすら思ってしまう。
「あの、どう、でしょうか……? 変じゃなければいいなって」
改めて見ると緑川さんってかなりの美少女で、小柄だけど胸が大きくて、そこがまた意外で。……って、胸が大きいとかは普通に視覚情報として入ってくるだけで、決してエロい目で見てるとかではなくて……!
違う、違うぞ! この女の子達はそういうことじゃない。エロいのは他の魔法少女アニメにお任せするとして、確かに俺は魔法少女が大好きだけど、応援したいという気持ちが大きいからであって。
「全然変じゃない、可愛い」
「はぅっ……!?」
そんなことを考えると、今日はその言葉がとても自然に出た。しかし困ったな、緑川さんがフリーズしてしまった。
(緑川さんってこんなに可愛かったのか!)
いつの間にか俺が緑川さんに攻略されそうになっている! でも実際のところ緑川さんが俺のことをどう思ってるかは分からないわけで、勘違いして距離を縮めようとして、避けられるということにならないようにしないと。
「あの、緑川さん、大丈夫?」
「えっ……? あっ、あっ、はいぃぃっ! わ、私ならっ、大丈夫ですー!」
緑川さんの声が裏返る。それにしても絵に描いたような慌てっぷりだな……。
「そろそろ行こうか」
「うぅぅ……」
スカートの端を両手で軽く掴んで下を向いている緑川さんにそう声をかけて、俺達はようやく歩き出した。
驚いたことに、開始五分でこれである。俺も平静を装ってはいたけど、内心では心臓バクバクだったのは俺だけの秘密だ。