第22話 二度見
ハラグロは夜中になると現れる。理由は不明。いや、理由なんて無いんだろうな。
「一条 早真君。起きてくれるかい」
「いつも夜中に来やがって……。どうしてお前はそんなに無神経なんだよ」
女の子に『お前』って言うのは気が引けるのに、こいつには遠慮なく言えるなあ。
「君に聞きたいことがあるからさ」
毎度のことながら答えになってない。いくら言ってもムダか。
「何が聞きたいんだ?」
「忘れたのかい? ピンク髪の魔法少女の監視についてだよ」
もちろん覚えてる。桜野さんの代わりに俺が怪異を回収したもんだから、桜野さんがサボってるとハラグロが勝手に勘違いしたんだ。
それで俺に桜野さんを監視するよう言ってきたわけだ。
「心配しなくても覚えてるから」
「そうかい? それならいいんだけど。僕としては君にも活躍してもらわないと困るんだ。だってそれだけの力が君にはあるんだからね」
「『力があるなら戦わないと』だったか?」
「そうだね。君もそう思わないかい?」
「大切なのは何のために戦うかということだと俺は思う」
「初めて君と会った時に言ったはずだよ、世界を救ってほしいってね」
まったく、よく言うよな。その『世界』ってのは『この世界』のことではないというのに。
「一応、監視の経過を伝えるとだな、ピンク髪の少女はよくやっている。だからあの子のことを悪く思うのはやめるんだ」
「悪く思ってなんかいないよ。せっかく魔法使いとしての力があるのに、いったい何をやっているんだかと思ってるだけだよ」
「だからそう思わないようにしろって話だ。彼女達だって自分達の使命を果たそうと、一生懸命に頑張っているんだ。その努力を称えてあげればいいじゃないか」
「うーん、よく分からないよ。結果が伴っていないのに、何を称えればいいんだい?」
「そうか。それならお前自身も、俺や魔法少女達からどう思われても文句はないってことだな?」
「僕にとって他人からの評価なんて、どうでもいいことさ」
まあそう思っていればいい。どうであれ、俺が魔法少女達への手出しはさせないし、怪異との戦いから必ず解放してみせるから。そしてハラグロにざまぁを。あと夜中に来んな。
翌日の昼休み。今日も三人で食堂でランチタイムを過ごしている。
最近は学校にいる間に怪異が出ることもなく、実に平穏な日々を過ごすことができている。
「昨日は楽しかったねー!」
桜野さんは今日も変わらず元気だ。
「そうね、これからはもっと二人と会う機会を増やしたいものね」
そして蒼月さんも変わらず落ち着いた口調で話す。
でも俺が変身している時は、俺のことをめちゃくちゃ見つめてくる。穴が開くほど見つめるというけれど、本当にそうなるんじゃないかと心配になるほどだ。
怪異が出ない日々は本当に平和なもので、俺は高校生活を存分に堪能している。
だって俺のスマホには、女の子の連絡先が登録されているんだから。しかも四人も。さらに全員が魔法少女。そして全員が可愛い。
でもなぁー、だからって頻繁に連絡するかといえばそんなことはなくて、俺がアニメショップに行こうとしてた日に、桜野さん達を偶然カフェで見かけて桜野さんから電話がかかってきたあの一回以外は、誰からも連絡がないし、俺からも連絡はしていない。
(せっかくだから俺から連絡をしてみようか? いや、しかし誰に? そして何の用で? 例えばデートに誘うとか……?)
夜。俺はスマホの画面を見つめながら、そんなことを考えている。気がつくと俺は、スマホの画面を穴が開くほど見つめていた。
すると真っ黒な画面がパッと明るくなった。同時に着信音が鳴る。電話がかかってきたのだ。
(桜野さんか陽山さんあたりかな? あの二人のコミュ力はすごいから)
画面に表示されている名前を見ると、『緑川 若葉』の表示が。
(緑川さんかぁ、なんか意外だなー)
そして一瞬の思考停止の後、思わずスマホを二度見した。
(なん、だと……?)
まさかの無口少女からの電話。これは会話が成立するか心配である。電話なのに。