第18話 そういう女の子
『アニメショップに行く途中で知り合いの女の子と目が合って女子会に同席したら、アニメ第四話の内容だと気付いた件』
ラノベのタイトル風に言うとこんな感じだろうか。
まったく、唐突にアニメの展開がやってくるから困る。一人でアニメショップに行くつもりが、まさか女子会に混ざるなんて誰が予想できるだろう。
アニメ第四話の内容は確か、残り二人の魔法少女である、陽山さんと緑川さんが初登場する話だったっけ。
カフェで四人楽しく女子会をしていたら、怪異が現れたんだ。ここは特に人で賑わう大通りだから、他の場所に比べると怪異が出やすい。
(怪異が出るタイミングいつだっけ……?)
「お待たせいたしました、ストロベリーパンケーキでございます」
俺が思い出す前に店員のお姉さんが、生クリームの上にたっぷりのイチゴが乗ったパンケーキを持って来て、テーブルの上に置いた。
どうやら桜野さんの注文の品ということなので、俺から蒼月さん、蒼月さんから桜野さんへとリレーをして、桜野さんの前へと運ばれた。
「わー! 美味しそうー!」
「桜野ちゃんはホントにスイーツに目がないねー!」
「桃華はスイーツさえあれば、後は何もいらないのよね」
「氷奈ひどーい!」
そんなやり取りを緑川さんは嬉しそうに微笑んで見ている。
(てぇてぇ……、てぇてぇよ……。どう考えても俺、邪魔じゃね?)
このままずっと魔法少女達のお戯れを見ていたい。
それから次々とそれぞれの注文の品が運ばれてくる。俺のホットコーヒーも来て、あとは縁川さんが注文したフルーツパフェだけになった。
(……思い出したぞ!)
怪異が出るタイミング、それは緑川さんが注文したフルーツパフェが来た直後。ということは、もう間もなくということだ。
どうして食事中にばかり出るんだよ! 怪異は俺達を兵糧攻めしたいのか!? ちょっと意味違うかもしれないけど!
俺は結界の中でも動くことができる。なのでこのままここにいると、マズイことになる。
「俺ちょっと席を外すから」
俺はそう言って立ち上がり、やや急ぎ気味で席を離れた。まるでトイレを我慢してたみたいに見えたけど、そんなこと気にしてる場合じゃない。まあ実際に男子トイレの中で待機ということにはなるんだけど。
そして予定通りといえば変かもしれないが、結界が張られたので俺も変身して怪異のもとへ駆けつけた。
店の広い駐車場には四人の魔法少女と、ボロボロのフード付きローブをまとった、骸骨の怪異が対峙している。
怪異の両手には異様に大きな鎌が握られており、その姿はさながら死神のようだ。怪異自体の大きさも10メートルはあるだろうか。間違いない、第四話に出てくる怪異だ。
近づくと大鎌を振り回されるため、打撃が得意な蒼月さんとは相性が悪い。
桜野さんは魔法弾での攻撃が得意だけど射程が中距離のため、危険性が無いわけじゃない。
緑川さんが得意とするのは防御で、障壁を作り出したりして、仲間を敵の攻撃から守るのが主な役割だ。
陽山さんは魔法で杖を作り出し、そこから遠距離魔法を放つ。実に意外なことに、ギャルである陽山さんが一番魔法使いっぽいことをしている。
なのでアニメでこの怪異を倒すのは陽山さんだ。俺が四人に近づくと、全員が俺に気が付いたようで、それぞれが口を開く。
「あっ、君は……!」
俺を知っている桜野さんはそう呟き、俺を見たことない陽山さんと緑川さんは「誰……!?」と戸惑いの表情を見せる。
「やっぱり来てくれた……!」
蒼月さんはどこか安心したように、そう呟いた。
(なんか蒼月さんだけ反応の種類が違う気がする……)
そして全員が戦闘態勢に入った。俺が魔法弾で倒すべく少しだけ魔力を溜めていると、怪異がなぎ払うように大鎌を振るってきた。
全員がジャンプでかわすと同時に怪異から距離をとった。変身中の身体能力は人間のそれとは違い、はるかに向上している。
とっさのことだったので、左右二手に分かれる感じになってしまった。桜野さんと蒼月さん。そして俺と陽山さんと緑川さん。
その距離はかなり離れており、どれだけ大声を出しても届くことはないだろう。
「ちょっと、あんた誰なの? 仮面なんか着けて怪しすぎるんですけど!」
陽山さんが俺を見て声を大きくする。緑川さんは少し怯えているように見える。
「言いたいことは分かるが、今はそんな場合じゃないだろう」
怪異は桜野さん達のほうへ近づいている。どうやらあの二人に狙いを絞ったようだ。
俺はそれを見てすぐさま特大魔法弾の準備に入ろうとする。だけど魔力を溜めている時間はないため、怪異に近づきながら通常の遠距離魔法弾を連射した。
アニメではこの死神怪異は、四人が連携してなんとか倒せたというほどに強力な怪異だ。二人では到底敵わないだろう。このままでは二人が危ない。
「どうした、お前も遠距離魔法が使えるだろう?」
「くっ……! 後で説明してもらうから!」
陽山さんはそう言って加勢してくれた。緑川さんは防御障壁を作り出し、俺達を守ってくれている。
俺と陽山さんの同時攻撃が効いたのか、怪異の動きが鈍り始める。
(よし、後は移動に専念して全力で近づいた後にトドメをさす。そして回収だ)
もう少しで桜野さん達のもとへ到着しようかという時、桜野さんが魔法弾を放つ構えをとった。
「みんな援護ありがとう! あとは私に任せてね!」
桜野さんはそう言うと、ピンク色の魔法弾を放った。それが命中した怪異はついに光り始める。
それを見た桜野さんは、あの白い宝石を取り出して回収の準備に入った。
(俺が回収するために手加減したのに!)
トドメも俺がして素早く回収するつもりだった。でも桜野さんだって魔法少女だ。一秒でも早く怪異を倒したいという気持ちから、自ら攻撃をしたに違いない。ましてや回収は自分にしかできない。そういう女の子なんだ。
「待て! 回収は俺がやる! だからその宝石を使うな!」
もしかしたらここで桜野さんが怪異を回収したところで、今すぐには影響が出ないかもしれない。でもこれまでアニメと全く同じ展開にはなってない以上、そんな保証もない。
アニメで結末を知っている俺は、彼女が不幸になるところなんて見たくない。
たかがアニメ、されどアニメ。でも今の俺にとってはこの世界こそが現実。
そしてこの世界に来て俺が一番に思ったことがある。それはこの世界の人だって生きているということ。
自分で考え、自分で行動する。この世界の人々は決してアニメの通りに動くわけじゃない。
だからこそ、俺はこうして彼女達のために動くことができるんだ。
(頼む! 間に合ってくれ!)
右手に持った宝石を突き出して、今にも回収しそうな桜野さん。
(こうなったら威力を最小まで絞った魔法弾を桜野さんの右手に当てて、宝石を落とさせるか……?)
俺が苦渋の決断を下したその時だった——
「だめえぇぇぇーっ……!」
蒼月さんがそんな叫びとともに、桜野さんの右手を掴んだ。