第17話 魔法少女には勝てない
映画館でのことから一週間が経った。六月になり最初の休日。転生したというのに、相変わらず休日の過ごし方に困っている。
さすがに一ヶ月も経てば、学校で多少の言葉を交わす人は何人かできたけど、休日に遊ぶという関係にまではなっていない。
こればっかりは性格的なものだから、無理することはないと思ってる。
そんなわけで今日は少し遠出をして、最近できたという大型アニメショップに行くことにした。
ポケットに財布とスマホだけ入れて、いざ外へ。家からだと電車で移動することになるけど、ほんの数駅なのでわりと気軽に行ける。
目的の駅に到着した後は、大通りの歩道を進む。この前の映画館があるところとはまた別で、俺とは縁がなさそうなオシャレな店がずらりと並んでいる。
俺がふと、とあるカフェに目を向けると、ガラス張りのカフェの店内で、女の子達が楽しそうに話しているのが見えた。
そしてその中の女の子の一人と、たまたまガラス越しに目が合った。
だけどすぐにお互いが驚いた表情を見せる。目が合った女の子は桜野さんだった。そして手を振ってくれる桜野さん。
(こういう時ってどうすればいいんだ?)
俺が軽い会釈で立ち去ろうとするとスマホが鳴ったので、画面を見てみると桜野さんからだ。相手が目の前にいるので、出る以外の選択肢は無い。
『偶然だね、一条くん! どこか行くの?』
『そうだけど大した用事じゃないよ』
『そうなんだー。もしよかったら中に入って来る? 氷奈もいるよー』
うん、ガラス張りだから見えてる。蒼月さんどころか、あと二人も女の子がいる。
その二人について、俺は知らないけど知っている。どういうことかというと、あとの二人は魔法少女だ。黄色の女の子と緑の女の子。
なんと魔法少女が全員そろっている! これはぜひとも生で見たい! 近くで!
だが女の子四人の女子会に突撃だなんて、俺にそんなスキルは無い!
これは悩むぞ。魔法少女をとるか平穏をとるか。俺が出した結論は……。
「この男の子は一条くん。私と氷奈と同じクラスなんだよ」
(来てしまった……! くそぅ、魔法少女の誘惑には勝てない)
俺は蒼月さんの隣に座り、桜野さんに紹介してもらった。
「そうなんだー、私、陽山っていうんだ。あ、下の名前は小夏ね。学校は違うけど高三だから、先輩ってことになるのかな。よろしくねー」
ギャルだ。金髪ギャル。アニメで見たまんま。オタクに優しいギャルだといいな。
「あ、あの……、はじめまして。私は緑川といいます。今年陽山さんと同じ高校に入学したばかりです。よ、よろしくお願いします」
なんだか緑川さんとは美味い酒が飲めそうだ。飲んだらダメだけど。
俺は二人にあいさつをして、早速黙り込んだ。いや、だってさ、何を話せばいいか分からないじゃない?
それにしても、目の前で魔法少女が全員そろっている! 魔法少女好きの俺にはたまらない光景だ。これでみんな変身していれば完璧だったけど、それは贅沢というものか。
「桜野さん達、こうやってよく四人で集まってるんだ?」
俺は意を決して話題を提供してみた。とりあえず質問をすれば、会話が続くだろう。
「そうだよ。でも会うの久しぶりなんだよ」
「女子会ってやつか。今日はどんな話をしてたの?」
「えっ、今日? あー、そうだねぇ……みんなとちょっとした意見交換というか?」
普通のことを聞いただけなのに、桜野さんが慌て始めた。地雷を踏んでしまったか!?
そう思ったけど確か先週、他の魔法少女に相談するって言ってたな。変身した俺を信じるか信じないか、話し合っていたのだろう。そりゃあ正直には言えないか。
「そうよ、他愛もないことを話していただけよ」
蒼月さんは冷静に、そう言って説明をしてくれた。
「そうだよー? 一条君だっけ? 女の子には秘密があるものなのだよ」
陽山さんはそう言って冗談ぽく笑う。
「大したことじゃないので、気にしなくていいと思います……」
緑川さんは頑張って説明をしてくれようとしている。
魔法少女はみんないい子ばかりだ。
でもさっきから何か引っかかるんだよなぁ。俺はアニメ第四話の内容を思い出そうとする。
そしてようやく気がついた。いつの間にか、この状況がすでに第四話の一場面になっているのだと。
第四話では何があるかというと、魔法少女四人と怪異との戦いだ。