表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/71

第14話 繊細な女の子

 蒼月(そうげつ)さんの顔が見たい! ……いきなりヤバい発言になってしまった。


 俺は蒼月さんが怪我をしていないか心配なんだ。ハッキリ言って蒼月さんはかなりの美人だ。もしもその綺麗な顔に傷でもついていたらどうしよう。責任をとるか? いやいや、何の責任だよ。


「ダメ……。とてもこんな顔見せられない」


 そう言って蒼月さんが顔を背けるので、俺は回り込んで確認しようとする。

 するとまた蒼月さんが顔を背けるので、またもや俺は回り込む。それを数回繰り返した。


(こんな怪しい姿で何やってんだ俺は)


「なぜ顔を背ける?」


「だっ、だって……」


「まあいい。とにかく怪我はないんだな?」


 俺がそう聞くと少しの間が空いた後、ようやく蒼月さんがこっちを向いてくれた。


「ええ、それは大丈夫よ……。助けてくれてありがとう」


「何か言いたそうだな」


「えっ? そ、そうね。あなたには聞きたいことがたくさんあるのよ」


「そう言ってたな。怪異に邪魔されてしまったが、俺は答えられることなら答えると確かに言った。質問を聞こうじゃないか」


「あなたは誰なの?」


 ええぇーっ! いきなりそれ聞く!? 確かに一番気になることだろうけども!


 さすがにそれはできない。正体を知られていないからこそ動けることもあるわけで、一度でも正体を明かすとそれっきりだ。


 それに桜野さんあたりは俺に気を遣って、率先して戦おうとするかもしれない。もしくは俺に守られてばかりなのを気にして、やっぱり積極的に戦おうとするかもしれない。


 とっておきと言えるほどのことじゃないかもしれないけど、しばらくはこのままにしておくつもりだ。


「それはできない。俺がこの姿である意味を考えれば分かるだろう?」


「そ、そうよね。正体を知られたくないからそういう姿をしているのよね。ごめんなさい」


「いや、気にしなくていい。素顔も見せない奴を信じられないのも無理もない。そこは謝罪する。他には何かあるか?」


 俺がそう言うと蒼月さんは何やらモジモジし始め、ボソッと口を開く。


「そっ、その……。私に会いに来たって本当なの……?」


「そうだ。俺はお前と話しをするために来た」


「私に話しをするため……。それってこの前に言っていた、桃華(とうか)が犠牲になるという話のこと?」


「そうだ。俺はそれをなんとしても阻止したい。だからこうして姿を現している」


「阻止と言われても、何をすればいいのか分からないわ」


「単刀直入に言おう。俺のところへ来るんだ」


「あなたのところへ……。それはずっと一緒にいてほしいということなの……?」


 ん? ずっと一緒に? 今の二人はいわばハラグロの味方だから、それをやめて俺の味方をしてほしいって意味だったんだけど、分かりにくかったかな?


「言い方が悪かった。ようするに、お前達の言う『可愛い動物』よりも俺を信じろということだ。そしてあのピンク髪の少女にも同じことを伝えるつもりだが、それにはお前の協力が必要なんだ」


「私……? 私はどうすればいいの?」


「簡単なことだ。お前からあの少女に話をしてくれればいい。『もう戦うな』と」


「桃華はあなたのことを信じてはいないのよ? それなのにあなたの味方をしろと言うの?」


「そうじゃない。俺はあの動物の好きにはさせたくないということだ」


 あの動物とは、もちろんハラグロのことを指している。


「でもそれはこの街を守るためであって、私達が戦わないとやがて世界中に怪異が出現してしまうのよ?」


「それなら心配ない。そうならないように俺が片付ける。だから安心していい」


「だからってあなた一人に任せるのは……。ううん、違うの。あなたが頼りないと言ってるわけじゃないの。でもその話がもし本当なら、桃華がいなくなるなんて耐えられない。私はどうすればいいの……?」


 きっと蒼月さんの中では、いろんな思考が混ざり合っているのだろう。

 なんとか背中を押したいけど、どんな言葉がいいだろうか? 俺は悩みに悩んだ。そして捻り出した言葉はこれだ。


「俺にはお前が必要なんだ!」


「あぁっ……! もうダメ……!」


 蒼月さんの表情が今まで見たことのないものになった。決して苦しいとかではなさそうで、まるで心の中で葛藤していて、今にも決心が揺らいでしまいそうな、不安定にも見える表情。


「ダメ……。私、どうすればいいの……?」


 一体どのくらいの間話していたのだろう。俺の耳が誰かが走ってくる足音をとらえた。

 そしてその足音が止まり、一人の少女が姿を見せる。


氷奈(ひな)お待たせ! 遅れてごめんね」


 桜野 桃華。いつも元気な彼女は今の蒼月さんとは逆に、自信に満ち溢れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ