第14話 繊細な女の子
蒼月さんの顔が見たい! ……いきなりヤバい発言になってしまった。
俺は蒼月さんが怪我をしていないか心配なんだ。ハッキリ言って蒼月さんはかなりの美人だ。もしもその綺麗な顔に傷でもついていたらどうしよう。責任をとるか? いやいや、何の責任だよ。
「ダメ……。とてもこんな顔見せられない」
そう言って蒼月さんが顔を背けるので、俺は回り込んで確認しようとする。
するとまた蒼月さんが顔を背けるので、またもや俺は回り込む。それを数回繰り返した。
(こんな怪しい姿で何やってんだ俺は)
「なぜ顔を背ける?」
「だっ、だって……」
「まあいい。とにかく怪我はないんだな?」
俺がそう聞くと少しの間が空いた後、ようやく蒼月さんがこっちを向いてくれた。
「ええ、それは大丈夫よ……。助けてくれてありがとう」
「何か言いたそうだな」
「えっ? そ、そうね。あなたには聞きたいことがたくさんあるのよ」
「そう言ってたな。怪異に邪魔されてしまったが、俺は答えられることなら答えると確かに言った。質問を聞こうじゃないか」
「あなたは誰なの?」
ええぇーっ! いきなりそれ聞く!? 確かに一番気になることだろうけども!
さすがにそれはできない。正体を知られていないからこそ動けることもあるわけで、一度でも正体を明かすとそれっきりだ。
それに桜野さんあたりは俺に気を遣って、率先して戦おうとするかもしれない。もしくは俺に守られてばかりなのを気にして、やっぱり積極的に戦おうとするかもしれない。
とっておきと言えるほどのことじゃないかもしれないけど、しばらくはこのままにしておくつもりだ。
「それはできない。俺がこの姿である意味を考えれば分かるだろう?」
「そ、そうよね。正体を知られたくないからそういう姿をしているのよね。ごめんなさい」
「いや、気にしなくていい。素顔も見せない奴を信じられないのも無理もない。そこは謝罪する。他には何かあるか?」
俺がそう言うと蒼月さんは何やらモジモジし始め、ボソッと口を開く。
「そっ、その……。私に会いに来たって本当なの……?」
「そうだ。俺はお前と話しをするために来た」
「私に話しをするため……。それってこの前に言っていた、桃華が犠牲になるという話のこと?」
「そうだ。俺はそれをなんとしても阻止したい。だからこうして姿を現している」
「阻止と言われても、何をすればいいのか分からないわ」
「単刀直入に言おう。俺のところへ来るんだ」
「あなたのところへ……。それはずっと一緒にいてほしいということなの……?」
ん? ずっと一緒に? 今の二人はいわばハラグロの味方だから、それをやめて俺の味方をしてほしいって意味だったんだけど、分かりにくかったかな?
「言い方が悪かった。ようするに、お前達の言う『可愛い動物』よりも俺を信じろということだ。そしてあのピンク髪の少女にも同じことを伝えるつもりだが、それにはお前の協力が必要なんだ」
「私……? 私はどうすればいいの?」
「簡単なことだ。お前からあの少女に話をしてくれればいい。『もう戦うな』と」
「桃華はあなたのことを信じてはいないのよ? それなのにあなたの味方をしろと言うの?」
「そうじゃない。俺はあの動物の好きにはさせたくないということだ」
あの動物とは、もちろんハラグロのことを指している。
「でもそれはこの街を守るためであって、私達が戦わないとやがて世界中に怪異が出現してしまうのよ?」
「それなら心配ない。そうならないように俺が片付ける。だから安心していい」
「だからってあなた一人に任せるのは……。ううん、違うの。あなたが頼りないと言ってるわけじゃないの。でもその話がもし本当なら、桃華がいなくなるなんて耐えられない。私はどうすればいいの……?」
きっと蒼月さんの中では、いろんな思考が混ざり合っているのだろう。
なんとか背中を押したいけど、どんな言葉がいいだろうか? 俺は悩みに悩んだ。そして捻り出した言葉はこれだ。
「俺にはお前が必要なんだ!」
「あぁっ……! もうダメ……!」
蒼月さんの表情が今まで見たことのないものになった。決して苦しいとかではなさそうで、まるで心の中で葛藤していて、今にも決心が揺らいでしまいそうな、不安定にも見える表情。
「ダメ……。私、どうすればいいの……?」
一体どのくらいの間話していたのだろう。俺の耳が誰かが走ってくる足音をとらえた。
そしてその足音が止まり、一人の少女が姿を見せる。
「氷奈お待たせ! 遅れてごめんね」
桜野 桃華。いつも元気な彼女は今の蒼月さんとは逆に、自信に満ち溢れていた。