第13話 あれ? 様子が……?
人通りの多い場所にある映画館の近くに怪異が現れた。結界が張られ中から飛び出してきたのは、魔法少女に変身した蒼月さん一人だけ。
二人が揃ってる時にだけ怪異が出るなんて、そんな都合のいいことは無い。怪異と時間は待ってくれない。
実はこれはアニメの第三話と同じ状況で、蒼月さん一人でゴーレム型の怪異と戦う。
そして見事パンチで崩すことに成功し、瓦礫のようになった怪異が光り始める。あとは回収すればいいというサインだけど、蒼月さんはそれをしようとしない。
なぜなら蒼月さんは、怪異を回収するための白い宝石を持っていないから。
今でこそ知っているけど、放送当時は「なんで回収しない? まさか敵なのか?」なんて思ったもんだ。
そして後から桜野さんが駆けつけて、白い宝石で回収した。
多分だけど、第三話では視聴者にそれを分からせるという、製作側の意図があるのだろう。それにしても近頃、『わからせる』という言葉の意味が物騒になっているのは気のせいだろうか?
いつものように俺はフード付き漆黒のローブに仮面という姿。
こちらに向かって来る蒼月さんを見ていたら、蒼月さんも俺に気がついたようで、驚いた様子で俺の前へとやって来て口を開く。
「あなたは……! どうしてここにいるの?」
「言っただろう? 戦いになれば必ず駆けつけると」
俺がそう言うと、蒼月さんが俺から目を逸らした。
「で……でも今は桃華はいないの」
「問題ない。俺はお前に会いに来たからな」
「はぅっ……!?」
(あれ? 今、変な声が聞こえなかったか?)
「おい、どうした?」
「な、なんでもないわ……。それよりも私はあなたに聞きたいことが沢山あるの」
「そうか。俺が答えられることなら答えてやりたいが、今はそんな場合じゃないみたいだぞ」
10メートル級のゴーレム怪異が俺達に近づいて来ている。会話が終わるまで待ってはくれないみたいだ。
「俺が一人で片付ける。お前は安全な所に隠れていろ」
「いいえ! 私だって戦える!」
「言ったはずだぞ。俺を頼れと」
「でもあなた一人だけに戦わせるなんて……」
「女の子なんだから戦わなくていい」
しまった。『女の子』だなんて、少し素が出てしまった。威厳を出すなら『女』のほうがよかったかな。
「私は魔法少女よ。今までもこうやって生きてきた。それに私達にはこの街を守るという使命があるの」
「この街を守る……か。それならばお前のことは誰が守ってくれるというのだ?」
「そっ、それは……! 自分のことくらい自分でできるわ」
「おい、前を見ろ」
怪異ゴーレムが腕を振り上げており、今にもパンチが飛んできそうな勢いだ。
そう思ったのも束の間、蒼月さんめがけて巨大な拳が振り下ろされた。
「しっかりつかまってろよ」
俺は素早く蒼月さんをお姫様抱っこして、大きなバックステップで怪異のパンチをかわした。
そして音もなく着地した。俺の腕の中には蒼月さんの温かな体温がある。俺は蒼月さんの目を見て優しく語りかけた。
「俺を頼ってくれるか?」
「うぅぅ……」
蒼月さんはそれだけを言葉にすると、俺から顔を背けてしまった。
蒼月さんをそっと地面に降り立たせた後、俺は怪異ゴーレムと対峙した。
この怪異ゴーレムは、まるで大岩の集合体のような体をしている。
俺は衝撃波の魔法を高出力でぶつけた。すると怪異ゴーレムは轟音と共に崩れ去り、瓦礫のようになる。
そしてすぐさま光り始めたため、俺が怪異を回収した。
俺は改めて蒼月さんの前に行き、「怪我はないか?」と声をかけた。
ところが蒼月さんは俺を見ようとしない。仕方がないから覗き込むようにしても、蒼月さんは顔を背けてしまう。
「こうも顔を背けられては、顔に傷ができてないか確認できないではないか」
「ダメ……。とてもこんな顔見せられない」
そう呟いた蒼月さんの声は、いつもと違ってとても弱々しいものだった。