第11話 ざまぁ対象ロックオン
アニメの中に転生して分かったことがある。アニメは毎週の放送だけど、それはあくまでストーリーに関わるイベントがあった日の、一場面を抜粋しているということだ。
例えばこのアニメの場合、怪異とのバトルや他の魔法少女との絡みなどが挙げられる。
だから何もない日は本当に何もない。登校して授業受けて、「怪異出るなよ。昼飯くらいゆっくり食わせろ」と祈りながら三人で昼食をとり、下校して、まったりして、寝る。
日常系アニメというジャンルがあるが、そんないいものじゃなくガチの日常だから、そんなものを放送しても面白くないことは俺が保証しよう。
あ、でも俺主人公じゃないや。魔法少女達の日常なら面白いかもしれない。というか俺は観る! 俺は魔法少女が好きなんだ!
そんなしょうもないことを考えられるほどに、今日も平和な一日だった。
桜野さん達とショッピングモールに行ってから三日が経ち、怪異は一度も出ていない。むしろそうじゃないと困る。
蒼月さんの様子はいつも通りだった。ショッピングモールでのあの件で俺の当面の目的は、『桜野さんを説得するため蒼月さんに協力してもらうこと』に変わった。
だからもう少し積極的に蒼月さんと接しようと思っているところだ。
(今日も平和だった一日に感謝して寝るとするかー)
部屋の明かりを消してベッドの中に入る。五月の気温は実に心地よく、いい眠りにつけそうだ。
目を閉じて頭を空っぽにする。そしてゆっくりとまどろみの世界へ身を任せようとしたその時、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「——ま君。起きてくれないかい?」
なんだ? 名前を呼ばれている気がする。
「一条 早真君。起きてくれないかい?」
俺が目を開けると、暗闇に丸くて小さな赤い光が二つ浮いているのが見えた。あの腹黒マスコットが再び現れたのだ。
見た目も全身真っ黒で、猫のようでありながらも、ウサギのように長い耳、二本の尻尾、怪しく光る真っ赤な目。
こいつが桜野さん達を魔法少女にさせた張本人。
「なんでいつも夜中に来るんだよ」
「君に用事があったからさ」
質問の答えになってない。こいつには気遣いという概念そのものが無いらしい。
「俺じゃないとダメなことなのか?」
「そうだね、最強の君だからこそ任せられることかな」
「言ってみてくれ」
「前に説明した通り君以外にも魔法使いがいるんだけど、どうも最近あまり活動していないみたいなんだ。だから君が監視してくれないかな」
「どうしてそう思うんだ?」
「倒した怪異は回収しなければならないことは君も知っていると思うけど、最近はその集まりが悪くなっているんだよ」
「それはただ単に、怪異が出なくなったからとかじゃないのか?」
「前にも言ったと思うけど、怪異というのは人の負の感情から生み出される。だから怪異が出なくなるなんてありえないんだよ」
「俺以外の魔法使いって、どんな人なんだ?」
「髪はピンクで、小柄な少女だよ」
やっぱり桜野さんのことじゃないか。俺が代わりに怪異を回収したのはたった二回だぞ? それだけでいわば桜野さんがサボってるみたいに言われるのは、俺としても見過ごせない。
「その魔法使いだって、今までたくさんの怪異を倒してきたんじゃないのか?」
「そうだね。戦える力があるんだから当然だよね」
「だったら少しくらいは大目に見てもいいんじゃないか?」
「ダメだよ、力があるなら戦わないと」
「自分で怪異と戦おうとは思わないのか? 人を魔法使いにできるくらいなんだから、凄い力をもっているんだろう?」
「どうして僕がそんなことをしないといけないんだい? 彼女達に任せればいいじゃないか」
マジかこいつ……。アニメではかわいい名前で呼ばれてたけど、とてもそんな気になれない。こいつの名前なんて『ハラグロ』で十分だ。
「腹黒め……」
ボソッとこぼれた言葉だったけど、ハラグロにはしっかり聞こえていたようだ。
「はらぐろ? 確かに僕のお腹は真っ黒だね。それがどうかしたかい?」
(こいつ絶対意味分かってないだろ)
「いや、なんでもない。それよりも監視だったな? その少女についてもう少し詳しく教えてくれ」
俺は演技としてそう言った。それにしてもやっぱりこいつの考え方には全く共感できない。
こいつは俺が転生者で、俺がこいつの目的を知っていることも知らない。
間違ってもこいつの目的を達成させるわけにはいかない。
(桜野さんを説得できた後になるけど、どうやってざまぁをするか、考えておくか)