第10話 それぞれの胸の内
おかしい。これはおかしいぞ。あの冷静な蒼月さんが、こんなワケ分からん奴の突拍子もない話を聞いて黙っているなんて。
アニメでの蒼月さんならこういう時は率先して、「でたらめなことを言わないでくれる?」なんて、ズバッと言い放っていたのに。
蒼月さんは依然として俯いており、口を開こうとしない。
うーん、さすがに心配になってきた。ここはひとつ俺から動いてみるとしよう。
「どうした? そこの……青い髪の少女よ。何か言いたいことがあるのか?」
「そうだよ、氷奈。遠慮なく言ってくれていいんだよ」
「ありがとう。それなら……本当にあの宝石にはそんな意味があるの? それに桃華だけがその……犠牲になるという話は本当なの?」
「本当だが、あの宝石を使い続ければの話だ。だが心配いらない。俺がそんなことはさせない。俺のことを信じられないのは無理もないだろう、だから行動で示す。戦いになれば必ず駆けつける。だから俺を頼るんだ」
俺がそう言うと蒼月さんは、またもや黙り込んでしまった。その胸の内を知るのは蒼月さんだけ。俺がいくら考えたところで答えなど出ない。
「えっと、君が私のことを心配してくれているのは嬉しいよ。でもね、やっぱり私は、私にしかできないことがあるのなら、やろうと思うんだ。それがみんなのためになるのなら尚更ね」
それを聞いた俺は、桜野さんらしい答えだなと思った。
「私達そろそろ行くね。助けてくれてありがとう!」
二人が俺の前から立ち去ろうとした時、蒼月さんが俺に問う。
「私達また会えるかしら?」
「お前達が戦うのなら、どこへだって駆けつけるつもりだ。そして俺が全て引き受ける」
そう返事をした俺は魔法少女を見送った。そして俺は思い出した。ショッピングはまだ始まったばかりだということを。
カッコいい感じの別れ方をしたが、この後すぐに再会するのだ。
(なんか妙に恥ずかしいぞ?)
こうして俺の転生後初の休日は、ものすごく濃いものとなった。
あ、ショッピングはすごく楽しかったです。
SIDE 桜野 桃華
今日はショッピング楽しかった! 氷奈、元気になってくれたかな? 一条くんも楽しいと思ってくれてたらいいな。
それにしても今日会ったあの人、誰なんだろう? 私達が魔法少女だということを知ってたみたいだし。
それに私達が騙されていて、私だけが犠牲になるとかなんとか。うーん、やっぱり素直に信じることはできないかな? でもきっと私を心配してくれていたんだよね。
氷奈はどう思ってるんだろう? 今日は楽しんでもらいたくて聞かなかったけど、今度聞いてみようかな。
SIDE 蒼月 氷奈
今日は楽しかったわね。桃華が私を元気づけようとしてくれているのが伝わってきて、嬉しかったな。一条君も楽しんでもらえたかしら?
それにしてもあの人にまた会えるなんて、思ってもみなかった。
一体あの人は私達の何を知っているの? 騙されているって本当なの?
それと確かに、あの宝石は桃華しか持っていないことが不思議だなと思っていたの。
でも本当にそれが桃華だけを犠牲にすることになるの?
そして怪異との戦いに駆けつけてくれるって……。それにあの強さ。もしかして頼ってもいいのかしら……?
ああ、ダメ……。最近の私、あの人のことばかり考えてしまっている。どこの誰かも分からない人のことを……。
でも少しだけなら信じてみてもいいのかも……?
やっぱりもう一度会いたい。でも怪異が出ないと会えない。だけど怪異は出ないほうがいい。
今はただ、また会えると信じることにしよう……。