望まぬ再開
9、10、11話は理央視点です。
朝の光が差し込む窓辺で、穏やかな気持ちに包まれていた。
見慣れた部屋、窓から見るいつもの風景。
ただ、いつもと違うのは彼と心を通わせている日々が、まるで日差しのように心を温めている。
何気ない会話や微笑みの一つ一つが、私の世界を鮮やかに彩っていた。
――思いが……どんどん大きくなっていっている。
彼が言った言葉が、私の中で何度も繰り返される。
思わず顔を手で覆ってしまった。
顔が……熱い……。
「先生は……いつか私とずっと一緒にいてくれるのかな……。」
思っていることがつい言葉に出てしまう。
気持ちが大きくなっているのは、私もだ。
ふいに、時計の針が時を刻む音が聞こえてくる。
「そろそろ仕事に行かなきゃ……。」
◇◆◇
今日は人が少ない。
平日の夕方はいつものことだが、今日は何か物寂しい雰囲気を感じた。
「じゃあ理央さん。その本、棚に戻してきてね。」
「はい。わかりました。」
同僚の職員に本を手渡され、目当ての棚へと向かう。
分類別に仕分けされている棚は、何がどこにあるのかもう大体頭に入っている。
「ええと……。110の……。」
本棚に並んでいる背表紙を指でなぞりながら抜けている場所を探す。
ぽっかりと空いている空間に、静かに本をしまった。
誰か……見ている。
その異様な雰囲気に思わず振り向く。
すると、視線の先には、冷たい笑みを浮かべた高校時代の同級生がいた。
――美樹香
「理央さん……だったかしら? お久しぶりね。」
全身に悪寒が走る。
なぜここに…!?
動揺が隠し切れず、思わず胸に手を当てる。
心臓の鼓動が早くなるのを、手を通して伝わってくる。
「み……美樹香さん。お久しぶり……です。今日はどうしてここに?」
「あら。私は大学生よ? 図書館にいてもおかしくないでしょ? レポートの資料を探しに来ただけよ。そうしたら、たまたまあなたがいたんですもの。声をかけて当然じゃない? だって、同級生ですものね?」
美樹香は不敵な笑みを浮かべながら静かに近づいてくる。
「ねぇ、理央さん……。この後、時間……ある?」
「いえ……まだ仕事中なので……。」
「だったら、仕事が終わったらちょっとお話ししましょうよ。二人で……ね?」
悪寒が止まらない。
何が目的なんだ?
高校時代から、表面上では優秀な女子生徒を演じていたが、本性は全然違う。
《《私だから》》知っている。
何とか申し出を拒否することを考えたが、それを見透かされたのか美樹香は私の耳元まで来て囁いた。
「……この前の花火大会……ずいぶんと楽しそうだったわね……。あんな表情、学校では見たことがなかったわ……。」
知っている……私と智宏先生の事を知っている。
そして、何か企んでいる。
美樹香はふっと離れ、その唇の端に歪んだ笑みを刻んだ。
「じゃあ、すぐそこにある喫茶店『ノエル』で待っているわね。あぁ、そうそう……。さっきここの職員の方に聞いたんだけど、あなたもうすぐ勤務終了の時刻なんですってね。あまり遅いと待ちくたびれちゃうから、早く来てね。」
先回りされている。
逃げられないことを悟った私は、美樹香と会うということしか選択肢は残されていなかった。
「……わかりました。終わり次第、すぐに向かいます。」
それを聞くと美樹香は後ろを向き、ヒラヒラと手を振りながら去っていった。
一瞬、呼吸が止まっていた。
慌てて呼吸をするのと同時に、心臓から出る鼓動が嫌なリズムを刻みながら全身を震わせる。
膝の力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。
「美樹香は、何をしようというの……。」
嫌な予感しかしない。
おそらく、美樹香は何かしてくる。私と智宏先生にとって、良くない何かを。
深呼吸をし、何か打開策がないか思考を駆け巡らせる。
ふと、ポケットに入っているスマホの存在に気付いた。
もう、こうするしかない。
嫌な気分を振り払うように立ち上がり、私は覚悟を決めた。
私の『真実の目』に映っていた美樹香の姿が、
黒と赤が交錯し、殺意に満ちたオーラに包まれていたから。