番外編5-2 かわいい妹は義姉の幸せを願う
「今日からここでお世話になるのよ」
「え?」
若いころのお母さんに連れられ、私はオラシオン公爵家にやってきた。
この運命は変えることは出来ない。
ここからお姉様と仲良くならなければ、彼女を再び冷たい牢で殺すことになってしまう。
絶対に仲良くなろうと私は決意した。
「お姉ちゃんと呼んでくれるかしら?」
「ロータスお姉ちゃん?」
だが、そんな私の決意とは裏腹にあっさり仲良くなってしまった。
前世では呼ばせてもらえなかった「姉」という呼び方を促された。
どういうことだろうか?
そこから屋敷の中を案内された。
親がいない場所で嫌がらせをされるのかと思ったが、普通に案内してくれた。
正直、逆に裏があるのではと疑うほど優しくされていた。
公爵家で過ごし始めて数年後、第一王子の婚約者選びのパーティーに呼ばれた。
前世で私が参加することのなかったパーティーである。
今世では私も参加することになった。
お姉様が推薦したからである。
そのころにはお姉様の意図を理解していた。
おそらくお姉様にも前世の記憶があるのだ。
前世の失敗を糧に自分はアレク様の婚約者の座からおり、代わりに私が最初から婚約者になるように行動していたのだ。
お姉様の考えも理解できるが、私としては迷惑なことこの上なかった。
私は決してアレク様のことが好きではなかった。
そういう考えがあったからこそ、アレク様も私に興味を抱いていたのだろう。
だからこそ、お姉様が私を推すのに対し、私もお姉様も推していた。
その結果、アレク様はお姉様に興味を持った。
お姉様が正式な婚約者になるまでいろいろあった。
お義父様とお母さんの仲が深まり、弟のクレイが生まれた。
彼が産まれたおかげでオラシオン公爵家の跡継ぎ問題が解決した。
私が婿を取る必要がなくなった。
しかも、クレイはお姉様のライバルであるレイラ嬢と仲良くなり、婚約してしまったのだ。
予想外の展開に私は驚きを隠せなかった。
だが、そのおかげで私はいろいろと気にしなくてよくなった。
元々、私に結婚願望はない。
前世は婚約関係からの問題でお姉様を不幸にしてしまったのだ。
婚約について興味を失うのは十分だった。
「王子妃様、甘いですよ」
「くっ⁉」
こっそりと扉から逃げようとするお姉様のドレスを掴む。
動きを止められ、苦しげな声を上げる。
「逃がしてよ、リリー」
「それは私の業務に含まれませんので」
私はお姉様の専属メイドになった。
母親の血か、私は人の世話をするのが好きだった。
アレク様に相談すると、お姉様のメイドになることを勧められた。
公爵家出身の王子妃を相手に引くことなく相手できる私は素晴らしい人材だったようだ。
私はそれを二つ返事で受け入れた。
前世ではお姉様を不幸のどん底に落としてしまった。
今世では彼女を幸せにしないといけない。
それをサポートするため、私は身近で世話をすることを選んだのだ。
「お姉ちゃんをこの地獄から助けて」
「どこが地獄なのかな?」
「ひいっ⁉」
突然現れたアレク様にお姉様は悲鳴を上げる。
一瞬固まった彼女をそのまま引き渡す。
どうにか逃げようとジタバタするが、成人男性の筋力に敵うはずもない。
だが、無理矢理にでも逃げることは可能だろう。
それをしないということはお姉様もあながち悪くは思っていないわけだ。
「ふふっ」
私は思わず笑ってしまった。
お姉様を売ったことには変わりないが、前世とは違って後悔はなかった。
お姉様を幸せにしたという満足感に満たされる。
「さて、私も仕事に戻るとしますか」
軽く背筋を伸ばし、私は歩き始めた。
お姉様の幸せを手助けしつつ、私も自分の幸せを探そうか。
これで番外編も終わりです。
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