番外編3-2 目覚めた公爵は幸せを願う
「はっ⁉」
目が覚めると、そこは見知った天井だった。
ゆっくり起き上がると、違和感に気がついた。
今までより体が軽かった。
ベッドから起き上がり、近くにあった鏡を確認する。
「若返っている?」
鏡に映っているのは若かりし頃の私の姿だ。
時期的にはちょうど妻を亡くしたころだろうか?
若いが、悲しみでどこか陰のある雰囲気だ。
これは夢だろうか?
何が起こったのか分からず、私は部屋から出た。
廊下を歩いていても、かつての屋敷だった。
暗く、冷たく、寂しい雰囲気はなかった。
「お父様っ!」
「ロータス」
可愛らしい声に呼ばれ、振り向いた。
そこには幼い姿の愛娘がいた。
牢の中でやつれた姿とは違い、しっかりと手入れされた可愛らしい姿だった。
(ガシッ)
「お父様、どうしたの?」
私は思わずロータスを抱き締めていた。
彼女は驚いた様子だったが、優しく頭を撫でてくれる。
その行動が私の心に温かさを与えてくれる。
もしかしたら、あの光景は夢だったのかもしれない。
こんな優しい彼女が罪を犯し、牢の中で寂しく命を落とすことなんてあるはずがない。
だが、まったく可能性がないわけではない。
だったら、あんな未来にならないためにロータスと交流していった方がいいだろう。
それから私はロータスとの時間を取るようになった。
妻が亡くなったことで悲しみはあったが、そのぶんロータスと交流するようになった。
彼女が前世のような行動を取ったのは、寂しさを感じていたからではないだろうか?
そう思った私は彼女を一人にしないようにした。
人との繋がりを作ることで悲しくないようにさせたのだ。
クレアとリリーを受け入れる説明をしっかりと行った。
賢い娘なので、理由を伝えれば受け入れてくれた。
自分の立場が危ういと思う可能性もあったので、ロータスが一番大事だと伝えた。
だが、なぜか彼女は二人を大事にするように言ってきた。
前世と違う反応に首を傾げてしまった。
前世と違い、ロータスは王太子の婚約者になろうとはしなかった。
だが、私はそれでも良いと考えた。
ロータスが死んでしまったのは、王太子の婚約者になろうとしたことが原因だろう。
その気持ちが強かったからこそ、他の令嬢が近づくことも許せなかった。
王太子がリリーに恋い焦がれたのも許せなかった。
ならば、ロータスは自由に恋愛すれば良いと考えた。
しかし、事態はそう簡単ではなかった。
オラシオン公爵家はこの国でも指折りの名家であり、王太子の婚約者を輩出できる身分でもあった。
ロータスが嫌がっても、話が来れば断ることができない。
優秀であるが故に、ロータスは婚約者候補になってしまった。
どうにか逃げようとしていたが、逃げ道を王太子と王妃が潰していく。
徐々に逃げ道を失い、ロータスは焦っていた。
どう手助けすれば良いのかわからず、私は戸惑っていた。
何か問題が起きたとき、今度はロータスの味方になろう──それだけは決意した。
結局、王太子の婚約者はロータスに決まった。
逃げようと様々な策略を練ったが、それがすべて裏目に出ていた。
隠しきれない能力の高さも評価され、完全に外堀を埋められた状態で受け入れざるをえなかった。
申し訳ないが、娘には諦めてもらおう。
私も途中で娘を助けることは諦めていた。
前世の娘は周囲から嫌われていた。
だが、現在の彼女は逆にかなり好かれていた。
婚約破棄を告げたはずの王太子も追いかけるほど娘のことが好きだったようだ。
それに気づいたとき、私は放っておくことにした。
娘のことは王太子が幸せにしてくれるだろう。
「父上」
「どうした?」
息子が私に甘えてくる。
頭を優しく撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
「もう、甘えないの」
「いや、いいんだ」
後妻──クレアが息子に注意をするが、私はそれを制止する。
夢の中ではなかった幸せな時間──もうすこしゆっくりと過ごしたい。
ロータスのおかげか、私はクレアと仲良くなっていた。
ガーベラしか生涯愛するつもりはなかったが、同じ境遇の彼女と共感することが多々あった。
そのおかげで仲が深まり、後継者となる男児が彼女との間にできた。
まさかこんなことになるとは思わなかった。
だが、これも悪くはない。
今回も娘は違う意味で犠牲になっていた。
だが、夢の中とは違って彼女も私も幸せになっている。
この幸せがずっと続けば良い──クレア達を見て、私はそう願った。
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