番外編3-1 残された公爵は後悔する
光すら差し込まない暗い部屋は全身を凍えさせる。
「お父様、私を助けて」
「・・・・・・」
檻越しに女性が懇願してくる。
長いこと収監されているせいか、髪はぼさぼさで体も痩せ細り、皮膚も荒れてしまっていた。
これがかつてこの国の令嬢の一番上にいた女性とは思えない。
「私、悪いことはやっていないわ」
「・・・・・・証拠が出ているんだ。私にできることは何もない」
「お父様っ!」
これ以上は見ることができず、私はその場を立ち去った。
亡き妻への思いに固執するあまり、忘れ形見への愛情を忘れてしまった。
これはそんな愚かな私への罰なのだろう。
「はぁ」
屋敷に戻った私は執務室で大きくため息をつく。
私はどこで間違っていたのだろうか。
愛する妻を失ったとき?
妻を失った悲しみに耐えきれず、仕事に没頭したとき?
亡くなった兄の妻と娘を受け入れたとき?
娘の悪い噂を聞いても、知らない振りをしたとき?
何が原因かはわからない。
だが、こうなった原因の一端は私にもあるはずだ。
今となっては、この後悔に何の意味も無い。
すでに挽回できる段階をとうに過ぎていた。
数日後、娘の訃報を聞いた。
暗く冷たい牢獄の中でたった一人で死んでしまった。
公爵令嬢としてこれ以上のむごい死に様はなかなかないだろう。
そう思った私は娘の遺体を引き取り、埋葬した。
悪役令嬢と呼ばれた彼女の死を悼む者はほとんどいなかった。
唯一の家族である私に悼む資格があるのだろうか?
そんな疑問がずっと私の中に残っていた。
それから私は仕事を辞め、屋敷に引きこもるようになった。
私は王太子を輩出した公爵家の当主であり、悪役令嬢を生み出した公爵家の当主でもある。
周囲も私への対応に苦慮していただろう。
そんな居心地の悪い場所にいたくもなかったので、私は逃げてしまった。
義娘が王太子の婚約者になったのに、素直に喜ぶこともできない。
そんな思いを他に知られたくもなかった。
暗い屋敷で引きこもり始め、徐々に体が壊れていった。
生活リズムは崩れ、食事も喉を通らなくなった。
起き上がりづらくなり、最終的に1日のほとんどをベッドの上で過ごすようになった。
そんな私を見舞う人間はまったくいなかった。
交流を絶った私の情報は外に漏れることはなかった。
「ロータスもこんな気持ちだったのか?」
暗い天井を見上げ、そんなことを呟く。
いや、彼女の方がもっとしんどかったはずだ。
柔らかいベッドの上にいる私の方がよっぽどマシである。
「まあ、もう関係ないか」
全身の力が抜けていき、視界も暗くなっていく。
意識が遠のいていくのを感じる。
これで私も彼女達の元へ行けるのだ。
こんな罪深い私が行けるかどうかはわからないが・・・・・・
娘とは同じ所にいけるかもしれないな。
そのまま私は息を引き取った。
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