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【番外編終了】前世で冤罪をかけられた令嬢は期待しない  作者: 福音希望
第三章 元悪役令嬢は幸せのために策謀を巡らす
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番外編2-1 元メイドの公爵夫人は義娘の幸せを願う 2

クレア編です。


 私──クレアはかつてオラシオン公爵家で働いていたメイドだった。

 自分で言うのも何だが、そこそこ優秀だったと思う。

 だが、あまり積極的に意見を言うタイプでもなかったので、使用人の間では空気が薄かった。

 親しい友人もおらず、一番話すのが上司であるメイド長だったぐらいだ。


 ある日、そんな私に気づいた方がいた。

 オラシオン公爵家の長男──リオン様だった。

 屋敷の庭園で落ち込んでいる時に彼が話しかけてきてくれたのだ。

 といっても、彼も同様に落ち込んでいる様子だった。

 立場は違えど、自分の境遇に疲れているのは同じだった。


 そんな二人だったからだろうか、お互いに惹かれ合った。

 彼の専属メイドに抜擢されたときには周囲も驚いたが、私自身が一番驚いていた。

 後で質問したときに、笑顔で「権力を使った」と言われたときには思わず怒ってしまった。

 もちろん、クビになるのを覚悟してだ。


 だが、そんな状況を快く思わない人物もいた。

 同僚のメイド達は私がリオン様の専属に選ばれたことを妬み、さまざまな嫌がらせをされた。

 物を壊されたり、洗濯した服を汚されたり、部屋に閉じ込められたりした。

 まだその程度なら耐えることが出来た。

 けど、母の形見のペンダントを壊されたときには流石に耐えきれなかった。

 壊れたペンダントを握りしめ、私は庭園で泣いてしまった。

 そんなとき、リオン様はそっと寄り添ってくれた。

 慰めの言葉を口にすることはなく、ただただ横にいてくれた。

 下手な言葉で同情していると伝えたくなかったのだろう。

 そんな彼の不器用な優しさが身にしみた。


 1週間後、彼に呼び出された。

 何かと思ったら、そこには元通りになったペンダントを渡された。

 知り合いに頼んで、直してもらったらしい。

 まさか元通りになるとは思わなかった。

 さらに彼への好意が大きくなった。


 だが、一介とメイドと公爵令息の間で恋愛など許されるはずもなかった。

 しかも、相手は次期公爵──跡取りなのだ。

 その夫人が平民出身のメイドで良いはずがない。

 それに気づいた私はこの恋を諦めようとした。

 だが、リオン様は決して諦めることはなかった。

 いろいろな裏工作をし、外堀を埋めていった。

 予想外だったのは、婚約者のはずのガーベラ様に対して自分の思いを告げたことだった。

 普通であれば、怒られたり、詰られたりするだろう。

 しかし、お互いが政略結婚の婚約者だと理解していたため、そんなことはなかった。

 むしろ、私たちの恋愛を応援してくれていた。

 彼女は私のことも気に懸けてくれていた。


 次期公爵とガーベラ様の婚約者の座を弟さんに受け渡したリオン様は父親──当時の公爵に私との関係を話しに行った。

 当然の行動だったが、これが良くなかった。

 公爵様は烈火のごとく怒り、私と別れるようにリオン様に迫った。

 だが、リオン様はそれを断った。

 そして、私を連れてオラシオン公爵家を出て行った。


 貴族──しかも、公爵家で生活をしてきたリオン様がいきなり平民として生活できるとは思わなかった。

 だが、優秀な彼は意外とすぐに平民の生活に馴染んでいた。

 あとで聞いたところ、私と生活をするために練習をしていたそうだ。

 こっそり、私の知らないところで──


 そこから生活は安定していた。

 贅沢はできないけれど、普通に暮らす分には問題なかった。

 リリーも生まれ、仲の良い家庭だったと思う。

 だが、それがある日突然崩れてしまった。

 私の住んでいる街で疫病が流行り、リオン様が倒れてしまった。

 幸いなことに私やリリーに移ることはなかったが、日に日に弱っていく彼を見るのはとても辛かった。

 その当時は治療法もわからず、発症すればほとんどの人が死んでしまった。

 残されることを覚悟し、リリーを一人で育てることを決意した。

 しかし、リオン様はそんな私を助けるために実家に連絡をしていたらしかった。

 喧嘩別れになった父親はすでに亡くなっており、弟様が公爵位を継いでいたらしい。

 その奥方として、受け入れることになったらしい。

 私は怒ってしまった。

 黙ってそんな話を進めていたこともですし、私はリオン様の妻である。

 それなのに、知らない──ということもないが、他人の妻になるように言われたのだ。

 だが、これには事情があった。

 弟様の奥様──ガーベラ様もすでに亡くなっていた。

 奇しくもリオン様と同じ流行病だった。

 ウチと同じように一人娘で、私に母親がわりになって欲しいということらしい。

 正直、かなり心配だった。

 平民出身の元メイドが公爵夫人としてやっていけるとは思わなかった。

 流石にそれはわかっていたのか、あくまで形として公爵夫人になるだけで良いと言われた。

 だが、一人娘──ロータスちゃんの母親としていて欲しいと言われたのだ。

 リオン様にここまでされたのだから、私に断る選択肢はなかった。


 その話をした翌日、リオン様は息を引き取った。

 私はリリーを連れて、オラシオン公爵家の門をくぐった。







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